第2話 これは俺のロボじゃない

「牧野さん、牧野さん」


誰かが俺のことを呼ぶ。

目を開けると真っ先に目に入ったのは医療ドラマとかの手術で使われるライト。次に目に入ったのはバイタルチェックの医療機器となにがしかの計測器。それと馴染みのあるロボットを組み立てる工具など。


どういうことだ?俺は自宅で寝ていたはずでは?


声の方に視線を動かすとそこには白衣姿の見覚えのある顔があった。


『ハセガワ…?』


そこにいたのは同期入社で同じプロジェクトにも参加していた長谷川という男性社員。彼とはたまに休日を一緒にすごす位には仲は良かった。数ヶ月前に異動があって以来あってなかったが元気そうで何よりだ。


「良かった。実験は無事成功したみたいですね」


笑顔を浮べる長谷川に俺は疑問しかなかった。


『実験成功?何ノコトダ?』


俺の問いに長谷川は笑顔を曇らせた。


「牧野さん、先日亡くなったんですよ。それで同意書に…」


長谷川が全てを言い終わる前に俺は叫んでいた。


『ナンダッテ!!』


え?何で?俺、家帰って寝てただけだろ?


「急性心不全だったそうですよ」


動揺する俺に死因を告げる長谷川は沈鬱な声でお気の毒にと最後に付け足した。


死んだんなら今いる俺は?思わず顔や身体を触れてみる。しかし、手から感じるのはフニャッとしてそれでいて弾力の在る人の肌の触感。顎のラインをなぞれば毎朝なぞる髭剃りラインと寸分の違いもない。


どうなってるんだ?まずは現状の確認だ。


『ハセガワ、鏡持ッテナイカ?』


「鏡ですね。今、持ってきます」


言うと長谷川はステン製と思わしき扉の向こうに消え、数分後手鏡を持って戻ってきた。


「はい、鏡です」


長谷川に鏡を手渡され覗き込む。鏡に映ったのはイケメンでもブサメンでもないごくごく平均的な黒髪黒目の少し疲れたような青年の姿。


うん、俺だな。


「おはよう、牧野君」


長谷川に隠れて見えていなかった人物がひょっこり姿を現した。


『キズヤ女史…』


喜寿屋宝子女史。容姿端麗頭脳明晰と非の打ち所のない美女であり、この会社の社長の令嬢にしてこの国屈指の天才ロボット博士。入社式に一度だけ見て以来、お目にかかるのは社内報くらいの雲の上の人物が今、微笑を浮かべて俺の目の前にいる。


「どうだね?ロボットに生まれ変わった感想は」


ロボットに生まれ変わった?これのどこがロボットと?俺の望んだロボットはこんなのじゃない!


『コンナノ俺ノロボットジャナイ!!』


溢れ出した不満は枯れることない泉のごとく湧き言葉となって発せられた。


『俺、書キマシタヨネ。一緒ニ資料モ添エタノニ。コンナノアンマリダ』


数少ない理解者であり、神絵師となった友人のデザインしてくれたこれこそイケロボの資料まで一緒に添付したのに。

一通り不満をぶちまけた後にしょんぼりと肩を落とす俺を2人はぽかんとした表情で眺めていた。


先に平静を取り戻したのは喜寿屋女史だった。


「それは、その悪かった。普通、人はいきなり自身が今まで認識していたものと姿が異なると精神に不調をきたすと言われていてな。配慮のつもりだったのだが、君にとっては迷惑なだけだったようだ」


申し訳なさそうに顔を伏せる喜寿屋女史に俺は要望を伝えた。


『ナラ、添付シタデザインニ変エテクダサイ』


「それは出来ない」


要望は秒で却下された。


『何故デス?』


「すまないが、それに人員を割く余裕はないんだ」


人員が割けないなら…


『素材サエ用意シテクレレバ自分デヤリマス』


これでも俺はロボット技師の端くれ、自分のボディくらい自前で作ってみせる。


「それならば許可しよう」


すんなり許可が下りた。


『アリガトウゴザイマス!!』


小躍りしそうなほど喜ぶ俺を見ていた喜寿屋女史は言う事があったのを思い出したという顔をした。


「そうだ、牧野君。今日から君は我が社の備品となり、ここが君の自室となる。あと、戸籍も消滅しているので新たに自身の呼称を考えておいてくれたまえ。最後に、君のメインコンピューターは生体、つまりは自前の脳なので無理をしすぎると第二の死が訪れるので作業は程ほどにな。説明は以上だ。君の我が社の貢献を期待している」


いうべきことを伝えた喜寿屋女史はステン製の扉の向こうに消えた。


長谷川も「待ってください」と女史の後を追うように扉の向こうに消えていった。


1人取り残された俺はぽつりと呟いた。


『俺ッテ、ロボットジャナクテ全身サイボーグナンジャ…』

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