壁を越えて出会ったあの子は不思議だった
機械仕掛けのお月様
言霊を知った少女
第1話
扉を開ければいつもと変わらない景色が並んでいて。
規則正しい信号機。朝から人々をめい一杯詰め込んで運ぶ電車。自分の存在なんて消えてしまいそうなほどの人混み。
道路を歩けばすぐに人混みに飲み込まれて。押されるように歩く。
少し離れた駅につくと、予想以上の人がいた。
ふと。私は昔祖母に言われたことを思い出した。
「言霊を忘れちゃいかんよ。早苗。」
あの懐かしい畳の匂い。私は大好きだった。夏になれば祖母の家に行って。
10歳のころだった。
祖母から言霊の存在を教えてくれたのは。
最初は何のことか分からなかった。
「早苗。言葉にはみな、言霊と呼ばれるものがあってな。言霊は言葉の魂。」
「言葉の魂?」
「そう。今話している言葉一つ一つにも言霊はいて、癒しや寂しさ、時には刃にもなるものだよ。」
「刃?誰かを傷つけるの?」
「そうだよ。早苗。学校でチクチク言葉を覚えているかい?」
「うん!」
「その言葉は人を傷つける。それは言霊がその人を攻撃しているんだよ。
だからね。簡単に適当な言葉を言っちゃいかんよ。」
言霊を教えてくれたときはそんなものあるはずがないと思っていた。
でも、いつしか言霊は私の目で見えるようになった。
今だってたくさん見える。
言葉一つ一つに発せられる言霊が。喜怒哀楽。全部。
祖母はもう一つ教えてくれたことがあった。
「最近の人はね。言霊なんて忘れてしまったさ。
存在を忘れてしまったからこそ、人は人に向けて暴言を吐いてしまうのさ。」
「そうなの?」
「あぁ。そうさ。だから早苗は忘れちゃいかんよ。」
確かに小学校のころ、友達に聞いた。
「言霊」って知っちょる?って。
そしたら笑われた。変なのって。
今思ったらその時の言霊はどんな感情だったのだろうか。
少しばかり気になる。
『四番ホームから~列車が到着いたします~。行き先は…~。』
いつもと変わらない電車に乗って。
私は高校へと向かう。だけど心の奥底では行きたくないって叫んでる。
「無理していかなきゃいけんの?」
怒りと哀しみが混じった言霊が私の言葉から勢いよく出てきた。
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