第3話 一億人と引き換えるモノ
ここは、どこなの?
「ああ、神の声が聞こえます」
「え?」
「〝ここは、日本〟です」
知ってるよ‼
クソありがたい預言を伝えた天使は、その幸福しかない笑みで…哀憎しかない俺の顔をじ~っと見ていた。やがて、何かに気づいたように空へと視線を上げる。
「神の声が聞こえます」
「あ?」
「〝ここは、地下〟です」
見りゃ分かるよ‼
俺達が今いるここは、古い病院地下の霊安室がある廊下。…みたいな感じ。薄暗くて、ぼろっちくって、物音がしなくて…いや、ビビってないからね?今、天使の白コートの後ろに隠れてるみたいなのは、ランドセルの中の大金を護る為だから!
車で拉致られて辿り着いた、あのだだっ広い地下駐車場…そこから殆ど壁だよりに進んで、何とか扉を見つけ、現在進行中なのだけど…ここ、どこなの?
ちなみにスマホによれば場所は、
ぶるるるるっ
ポケットの振動が体全体に伝わって、俺は身を震わせた。
「あ、また女の子からの連絡ですね」
天使が屈託のなさすぎる笑顔を向ける。俺の野球ユニフォームのだぼだぼのポケットの位置が、ちょうどキノコみたいな髪型の位置に当たる。その余りにも可愛らしい顔に、…俺は何の感情も持てずに、スマホの画面へと視線を向ける
『殺した?』
『殺した?』
『殺した?』
『殺した?』
『殺した?』
『殺した?』
5分以内に送り続けられるその言葉で、どんなにスクロールしてもスマホの既読画面が埋められている。既読をつけないと、10秒ごとに鳴るので無視もできない。
「………」
怖ぇよ‼
このメッセージの送り主は女サムライのスケさんで、その意図は『さっさと眼帯を殺せ』なんだけども、殆ど、いや、100%私情です。嫌いなあいつをぶっ殺せ、とゆー…これが邪魔でロクに調べられねぇんだよぉ‼パワハラだから‼
…まぁ、ここが日本のどこであるかを調べるのに意味はなく、どっかの地下で十分だ。問題は…そう、問題なのは、眼帯の「ここに人を連れてくるな」という言葉。
俺が今いるここは『人殺したちの立ち入り禁止区域』って事だからな。
ぶるるるっ
またかよ‼イヤイヤ画面に目を落とす。
『タコツボ、買いましょう!』
「………なにやってんだ?」
『タコツボを買って貰おうとしています』
へへへへ~っと可愛く笑う天使が両手でスマホをいじっている。その顔を見ると怒る気にもなれない。この子が俺に纏わりついている理由は「タコツボを買って貰う為」だからな。何故かって?それが神様の言葉だから、だそうだ。
もう、電源切っとこ。
ため息をついて周囲を見回すと、静かだ。
錆びた鉄や銅の扉が多くなってきたせいか、階段を上がってからさらに冷たく、薄暗く感じるな。電気も蛍光灯ばっかだからか、所々替えられていないし。
何より、人がいない。
「…何だ、これ?」
俺達が不法侵入しているんだから、もっと戦闘員?が俺達を探し回ってもいい気がするんだけど…あれだけの大立ち回り…をしたのは、眼帯か。いわば、身内同士の喧嘩みたいなもんだから?それにしても、ここまで無人なのはおかしくない?
実は尾行されているとか、どこかへおびき出されている可能性とか、色々考えて慎重に進んでいるんだけど、…どうやら、単純に人がいないようだった。
「これは…神のチカラです」
「へ?」
「タコツボを売る邪魔を遮っているのでしょう」
神の力、他にもっと使い道あるよねぇ⁉
結局、俺達は何の妨害もなく、突き当りに辿り着いてしまった。二人、茫然と上まで見上げてしまう。そこにある扉は、あからさまに大きく、重厚で、その先が広い部屋だと想起させる。そして、自動ドアじゃねぇ。両開きのノブ回しだった。
ありていに言えば、『ボスの間』の扉だ。
「…さて、どうするか」
「やくそう、と、どくけしそう、の確認です!」
持ってねぇ。それ。
…この門の前にも誰もいないんだよね。防犯カメラとかも…ねぇな。もしかして、そもそもここには誰もいなかったんじゃなかろうか。ただの廃墟。使っていたのは駐車場だけ。…いや、それだと眼帯の「ここに誰も連れてくるな」の意味が…
そ~っと、できるだけ音を立てないようにの中を覗いてみる。
「や、やめてくれ…!こんな、…そんな所…」
「体はそうはいっておらぬようじゃが?ほぉ~れほれほれほれ」
「アッー‼」
ばたん
「うむ」
取り込み中だった。
「な、何をやっているんだ⁉あなたは‼」
全くその通り。
このツッコミがなかったら、…なんかもー全てなかった事にして、この場を後にしていたかもしれない。改めて、音を立てないように扉を開けて、そ~~~っと中を覗く…広い、部屋だな。ボスの間って調度品はない。作戦司令部?えー…
ただ、視線はどうしても〝そこ〟に行ってしまう。俺から見て部屋の右側…半裸の男女が絡み合う〝そこに〟…クソ、遠くてよく見えねぇな、もっと…
…いや、デバガメ的な意味じゃないからね?状況確認、敵情視察…いや、おっぱいばっか見てないから。男も見てるから。結構いい男ですよ?長髪を後ろで細く束ねて、目も鼻も眉も、何から何まで細っこい、どっかで見た事…ある…
「………」
俺の中で、急激に熱が冷めていくのが自分でも分かった。
「…うるさいのぉ〝剣帝〟」
「答えろ、〝炎帝〟‼」
半裸で抱き寄せる男に頬ずりをする…その女の瞳は燃える様な赤であり、腰までたれた髪も燃えるような赤。…まさに〝炎帝〟か。服装は、…布。男と比べるに、多分身長170㎝くらい。ナイスバディというより、引き締まった肢体だった。
顔は…よくわからん。化粧で書いた顔しか、という意味で。逆に言えば、化粧によってハッキリ美人なのだけども、何故か無特徴に見える不思議。
ちなみに男はジーパン履いてるな。…チャックは降ろされているけど。
「何をしていると言われてものぅ…見て分からぬか?」
「分からないから、聞いている‼」
その常識人の声は、やはりさっきの黒コート眼帯サムライだった。同じく〝真人〟の〝炎帝〟に〝剣帝〟と呼ばれる、さっきの剣の達人さんだ。…が、こいつも顔の記憶、印象は薄いんだよなぁ。覚えているのは、記憶に残るのは『眼帯』だ。
…真人の特徴はモブ顔なんだろうか。不細工ではなく、ただ無個性。
「わらわたちの〝愛〟を、…そやつに見せつけておるのじゃ」
誰に…その相手へと向ける視線は、濁りきった炎が燃え盛っていた。
赤髪の彼女…炎帝の眼下で、女が一人、4人の男たちに組み伏せられ、地面に這いつくばされていた。左腕をキンキラ金髪(黄)が、右腕を小さいの(紫)が、左足を中分メガネの大きいの(青)が、右足を長髪黒髪(赤)が、ガッチリと。
(色)違いで、同じスーツを着る戦隊チックな人達。
…ってか、4人ともすっげぇ色男だな。ホストかよ。イケメンってか、方向性が明らかに中性的というか、男でも色気を感じるとかそーゆー系だぜ?
「それじゃない‼…それも、だが…何で!全ての兵を下がらせた⁉」
「じゃ~か~ら~、わらわたちの〝愛〟を、見せつける為に邪魔だからじゃ」
変態さんの理屈じゃね?それ。
「…気分はどうじゃ?タマモ」
名を呼ばれた彼女は、組み伏せられながらも、切り揃えられたショートボブの下に光る漆黒の瞳の奥は闘志を失っておらず、視線を真正面から睨み返す。…ってか、今にも噛みつきそうな勢いMAXだから本気の力づくて抑え込まれているのだけど。
同じく化粧をしっかりとした美女なのだけど、印象がまるで違った。こちらは彫が深いというより鼻筋の通った美女だから?上半身下着&太もも露出したベリーダンサーみたいな服装は、確かに個性てんこもりだけど、そのせいか?
「状況が分かっているのか⁉今、ここには、あの仙人が潜入しているんだぞ‼」
「仙人なら、ほれ、あそこから覗いておるぞ?」
「………」
ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼思いっきり目が合った‼
気づくと、4人…いや、5人か?ホスト達が、抱き合う男女の前にその身で壁を作ろうとしていた。ドアの隙間から覗く俺を、思いっきり警戒しながら。瞬時のその動作は、彼らがまず第一に『炎帝』の護衛であることを示している。
必然、組み伏せられていた女性は解放され、俺の方へと駆け寄ってきた。
ばきぃ
「さっさと助けんか‼このノロマ‼」
「何で俺が怒られてんのぉ⁉」
「何でわしが捕まる前に助けなかったのじゃ⁉」
「むちゃくちゃ言うにもほどがある‼」
「よし!さっさとあやつらをミナゴロシにしてトキを救うのじゃ‼」
「もう、ちょっと、黙ってろ、お前‼」
最初のパンチから、理不尽極まりないこの女は、タマモ。あそこで炎帝に捕まっている男、トキの恋人だ。露出の多い服から露になる四肢のいたる所にはアザができているが、全く心配する必要はないのは今の一発で明らかだった。
もう、隠れていても意味はない。俺は扉の中へと、…入らなかった。
「服を着ろ」
「…ボウヤ達には、刺激が強すぎたわねぇ」
肩をすくめて見せた赤い髪の女性の前に、すでに衣服が捧げられていた。4人?のホストイケメンたちが、実に手際よく、衣服を渡し、視界を隠し、着替えを手伝っている。トキは…後ろの影か。もう一人のホストに捕らえられているようだった。
真紅のドレスに着替えて、改めて半裸の男を抱き寄せた赤い髪の女性の『両目』が『赤く』光っている。…確定だな。どんなに八門五行を扱えても、あのリョウマでも光るのは片目だけ。こいつも、あの眼帯と同じ〝真人〟か。
…って、眼帯の落胆がハンパねぇな。せっかく、自分達〝真人〟の絶対防御を唯一無力化する〝
「わぁ…舞踏会の会場ですね?」
ようやく部屋の中に入る事が出来た天使が、見当はずれな感想を口にする。…いや、確かに、そのだだっ広い部屋、ドレスの女性、その周りのホスト達、あと黒コートSPとベリーダンサーと裸芸人は、…なんか舞踏会っぽいか?
改めて、扉の中を見回す。広いけど…殺風景だな。扉と同じく銅や鉄の金属でできているからか、荘厳優美なダンス会場とは真逆の寂しさだ。壁際には機械群がならび、天井はそれほど高くない。正面には、完全に塞がれた大きな窓がある。
「このお姉さんはアユムさんの知り合いですか?」
無垢すぎる笑顔から出る質問。答えた大人の女性の笑顔も同じくらい無垢だった。
「ムカついた時にブン殴るサンドバックじゃ」
「ひどすぎる‼」
「ボクちゃん?は、このロクデナシとどんな関係なのじゃ?」
「お金だけの関係です!」
「言い方ぁぁぁああああああ‼」
道端の犬のクソを見る目で見られたよ‼
「…で」
【現状確認】俺を見て慌てて逃げ出した眼帯の、その同僚赤髪の真人が、トキを半裸にして愛でている。その眼下に、トキの恋人のタマモを組み伏せて。
この状況、…何?
「…おい、トキ・スケコマーシ=3世」
「誰がスケコマーシ=3世だよ⁉」
お前の正式名称だ。
「…どーせまた、気のある素振りを…フラグを全部立てて、イベントを全部起こして、あとは告白受けるだけ…と、完全に落とした上で『全ては
「………」
図星じゃねーか。
反射的に視線を逸らしたトキは、曇り切った表情でチラチラと…視界の隅の隅のそのまた隅だけでこちらを窺う。その中で、タマモは血走った瞳を二人に向けながら、怒りを全て込める様に…俺に卍固めをかけてるぞ。
「…トキぃ」
「『…トキぃ』じゃねぇ‼痛ぇんだよ‼放せーーーーーーーーー‼」
「ト~~~キ~~~…わらわはお前を責めてはおらぬぞ」
返答に窮するトキを、我が子を庇う様にように炎帝が自分の中に覆い隠して抱きしめる。俺を思いっきり睨みつけて…が、その媚びた声は、逆に全てを認めていた。
「まぁ…それは?〝大星石〟は幾千幾万の人の思いの込められた、あらゆる願いをかなえる言われる至宝であり、あの〝大凶星〟との戦いの切り札じゃ」
ほんの僅かな、気づかないほどの非難を声に込めた、その言葉の中身は、ただ淡々と述べられる事実の羅列である。…一つの誇張もない、とてつもなく重い事実の。
「が、ならばこそだ!命よりも大事なモノだからこそ、愛するお前に託したのだし、失った所で微塵の後悔もある筈がない。例え世界中から非難されようとも!」
一転して、それこそ燃えるように情熱的な、…恩を着せてるな。善意の、寛容の、愛情の、押しつけが、その顔に浮かぶ笑顔と同じくらい、とんでもなかった。
「大星石はお前がわらわの元で作り直すと言ったではないか。わらわの隣でず~~~っと研究に勤しんでくれればいい。何年でも、何十年でも、何百年でも」
…目がマジだぞ。
「それに」
そこで、声のトーンがあからさまに変わった。
「…罰は、そこの女が代わりに受けてくれよう」
「うるさい!さっさとトキから離れぬか‼」
タマモは言い返そうとして、慌てて俺を盾にし、陰から言い返す。彼女を、鬼が見降ろしていたから。両目に血よりも赤い嫉妬の炎を燃やす般若が。俺はここまでの殺意を見た事はなかった。その重圧に、吐き気を抑えるだけで精一杯だ。
「…まずはトキの見ている前で(ズキューン!)な(ズキューン!)達に徹底的に(ズキューン!)させたあと、目を(ズキューン!)してから(ズキューン!)を(ズキューン!)で(ズキューン!)してから腹を(ズキューン!)まみれに」
「おいぃ‼放送できない事しか言ってねーぞ、あの女‼」
叫んだ俺をの顔を、耳を塞がれたキノコ頭がきょとんとして見上げる。
「…それを、やるのか?俺の前で」
すでに刀は抜き放たれ、捨てられた鞘が乾いた音を立てて床に落ちた。
眼帯は、すでに眼帯を外していた。露になる両の眼の白い光。…ただの人殺しの目だ。すでに男を象徴するモノは『眼帯』ではなく『剣帝』だった。黒いコートの影から抜き放たれた白刃が突き付ける先には、両目に嫉炎を燃やす女がいる。
「…なんじゃあ?お主もあの女狐の色香に狂ったクチか?それとも、」
「関係ない。目の前で理不尽に人が殺されそうなら、止める」
正義の味方がいた‼
「協力関係であって上司と部下ではない」と言っていたけど、真人同士は独立国家間のような関係か。〝炎帝〟に向ける〝剣帝〟の殺意は本物で、瞬時に4人のホスト達が待ったなしの臨戦態勢に入ったほどだ。
「…まぁ!それにぃ!トキの用意した代替え案は素晴らしい‼」
その声はわざとらしい大きさだった。その場の全員が、背を叩かれたように体をこわばらせて声へと顔を上げる。戦いを中断させる為の、あからさまな言葉だ。
全員が目を向けたそこでは、トキが撫で繰り回されていた。ただ、撫で繰り回す女はトキの顔を見ておらず、その両目に野心的な炎を燃やして俺達を見下ろす。
「龍脈集まるこの場所で、新型爆弾に大凶星を近づけるだけで、ボンッ」
言葉に合わせるように、炎帝の掌の上で爆発が起きる。
「終わりじゃ」
「何が?」
「日本が」
「…日本が?」
「ああ。さすがに1億人を道連れにすれば〝大凶星〟も死ぬじゃろ?」
「………」
えええええええええええええええええええええええええええ‼
炎帝が手を上げたそこに、ホストの一人が操作盤を渡す。スイッチが押された3秒後、正面の大きな窓を塞ぐ鉄板が上がっていく。それと共に差し込んでくる光…それが照らすのは、窓の向こうに直立する、巨大な円筒形の柱だった。
あれが…新型、爆弾?待て待て待て待て、ちょっと待てよ…
ここで新型爆弾が爆発するだろ?思いっきり首都圏だから、それだけで10万単位の死者。龍脈だかがマントルやらを指してるモノで、大凶星がブーストしたら…
日本、沈没すんぞ。
「トキーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」
突然、思いっきり怒鳴られて、半裸のジーパン男が炎帝に抱き着いた。震えるその男を、本当に愛しげに、嬉しそうに、女が撫でまわす。
「いや、ぼ、ボクは、…ただ、案を出しただけで…」
「1億人殺す案出したんだぞ、お前‼」
「し、仕方なかったんだよ!追い詰められて、タマモの為に」
タマモのせいにすんじゃねぇぇぇぇええええええええええ‼
「お前ら二人の幸せと日本人全員の命じゃ、プラマイゼロにならねぇ‼」
「…その論理だとプラスじゃ」
ぽつりと、しかし明確に、炎帝が呟いた
「1億の日本人の命で、全地球人類の命が救われるからのう」
…そういや、その理屈で戦争起こそうとしたんだよな、こいつら…
〝大凶星〟とは、存在するだけで周囲の全てを不幸にする存在だ。そして、そう簡単に死ねない存在だ。死んで終われるなら、すぐに死んで不幸が終わってしまうから。自らの生が…不幸ができるだけ長く続く為に、他人を不幸にし続ける。
その、大凶星のもたらす不幸から、世界を護るのがこいつら〝真人〟だった。
「トキ、お前は間違っていない」
「そ、そうだ…そうだよ‼仕方ないんだよ‼世界の為なんだ‼」
…これほど理不尽な〝仕方ない〟もねーべな…
自己正当化の蜘蛛の糸に縋り付き、トキが狂喜乱舞する。その様子を俺と、そして剣帝も白々しく眺めていた。ただ、どんなに苦々しい顔をしていても、こっちの理不尽な人殺しを止める気はないようだ。…死人のケタが十は違う気がするけども。
「あとは〝大凶星〟をここに連れてくるだけ。…計画はもう終わる」
いきなり最終段階ってひどくない⁉
「その最終段階で、何故!こいつらをここまで通したんだ⁉」
なぁなぁで仲良しにされかけて、色々と鬱屈したモノを吐き出すように、剣帝が語気を荒げる。それは正論ではあったが、相手にマウントを取るだけの正論だった。
「〝仙人〟には、我々の絶対防御も意味をなさないのだぞ‼」
「…うるさいのぉ、剣帝?お前のそーゆーところが、嫌いじゃ」
心の底からめんどくさそうに、炎帝が手を振った。一つ息を吐いてから、トキのほっぺにキスをして笑顔を置き去りにすると、つかつかと歩いてくる。そして、俺を足元から帽子の先まで、値踏みするような視線でねっとりと眺めた。
「のう?仙人殿、我々の側についていただけるのなら」
「…あ?」
「抱いてやってもよいぞ」
「クソよろしくお願いします‼」
ばきぃ
「アホかぁぁぁぁあああああああああああああああ‼」
「…いや、待て、ほら?冷静に考えてみれば〝仕方なかった〟と」
「になるかぁ‼お主こそ、日本人一億の命とナニを引き換えようとしておる⁉」
「愛」
ばきぃ
「愛じゃなかろう、それ‼」
「…いや、きっと日本国民も『愛と引き換えなら仕方がないよね』と」
「俺が言うと思うか?」
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