運命の駒たち ロウヒーローVSカオスヒーロー
まさ
第1話 神の声
「ああ、…神の声が聞こえます」
「は?」
「〝この幸せのタコツボを買え〟と」
「………」
ヘンなやつに絡まれた‼
掌サイズのタコツボを大事そうに抱えていたのは、前髪が綺麗に切り揃えられた、キノコみたいなぼっちゃん刈りの…じょうちゃん?白いふわふわオーバーコートの上に、何かランドセルみたいなもんを背負ってる…性別以前に、可愛い子だ。
くりくりとした大きな瞳に期待に満ち満ちた光を輝かせ、エサを欲しがる子犬みたいに俺をじっと見つめているな。…タコツボを差し出して。
「買いますよね?」
「いや、…いらんけど」
「ええええええええええええええええええええええええええええ⁉」
この世の終わりみたいな形相で驚かれた‼
人形のように華奢な体が、糸が切れたように地面へと落ち、両手をついて体を震わす…って、この図柄、やばくね?今は夕方で、ここは人通りの多い駅前広場も兼ねた高架歩道。道行く人々が、チラチラ…俺を見ながら通り過ぎていく。
何かきまずくなって、タコツボをひょいっと手に取ってみる。…タコツボだな。黒ずんだ縄の巻かれた黄土色の陶器で、勿論、宝石がちりばめられたりもしていない。
気が付くと、天使の微笑みが俺を見上げていた。
「たった、100万円ですよ?」
「高ぇよ!」
「ええええええええええええええええええええええええええええ⁉」
さっきから俺のが悪いんすかねぇ‼
「この〝幸せのタコツボ〟の何がいけないのでしょう…?」
「名前」
「この〝キーゼルバッハのタコツボ〟を買いますよね?」
意味わかんねぇ。
「…あの、なんで俺がタコツボ買わなあかんの?」
「神があなたを名指ししたのです」
「〝あそこの、アユムちゃんに売りなさい〟ってか?」
「〝あそこの、全身おかしな野球のユニフォーム姿で、ハァハァ言いながら女性を眺めている、見るからにモテなさそーで哀れな男に売りなさい〟ですよ?」
神様、俺に喧嘩売ってるよねぇ⁉
「〝あの、センニンに売れ〟と」
「………仙人?」
無表情を装いつつ、ポケットの中の右手は落ち着きなく10円玉を転がしていた。
「…何で俺が〝仙人〟だと知ってんの?」
コインの裏表とサイコロの目は天のご意思。俺は全ての選択をそれで行い、その選択がどんなに嫌でも、不利益でも、不正義でも、従う。その〝偶然〟を〝運命〟と受け入れられる俺は『仙人』…らしい。知らんけど。
ただ、俺の自覚はともかく、他の〝運命〟を操る連中は俺をそう呼ぶ。〝運命〟を利用するだけの彼らには、決して勝てない俺を『仙人』と。
完全警戒態勢の、俺を出迎えるその顔は…天使だ。
「千人ナンパしても彼女ができない男を、センニンと呼ぶ。ですよね?」
神様!センニンの意味、間違ってますよ‼
「あー…つまり、これを買うとモテモテになると」
「なりません」
「…じゃあ、どんなご利益があんのよ?」
「何もありませんよ」
100万円をドブに捨てるだけ‼
「…っつか、俺、100万円なんて持ってねーけど」
「あそこに無人ATMがあります!」
それただの借金‼
「…じゃーなー。おつかれー」
ポイっとタコツボを投げ返して踵を返した、…そこにもう、タコツボが待ち構えていた。右を向くと、…もうその前に。左を向いても、…回り込まれてしまった。
そして止まる度、ツボの横から可愛らしい笑顔がのぞく。
「タコツボ、100万円ですよ?」
…何、これ?ボス戦なの?
「必殺!スーパー大回転‼」
「わわわわわわわわ⁉」
その場でコマのように大回転をする俺の正面に、頑張ってタコツボを差し出そうと…キノコ頭は俺の周囲を駆けようとしたが、2周もしない内に足をもつれさせバランスを崩す。掲げた手の上でタコツボを大回転させ、足は空中で走り続ける。
何とかタコツボだけは守ったけど、そのまま尻もちをついた。
どんっ
「いってぇなぁ、コラァ‼」
…拍子に、後ろの男にぶつかった。
ぶつかった直後にブチ切れて振り返ったのは、二十歳くらいの若者グループの一人だ。見るからにチャラい外見なのだけど、人を見かけで判断してはいけない。…あのタコツボで後頭部を強打された挙句に押し倒されたので、彼の怒りは正当だ。
「おい‼」
「へ?」
「お前の連れだろ、ユニフォーム‼シカトしてんじゃねぇぞ‼」
「俺、関係ねぇけど⁉」
即ツッコミに気圧され、半歩退いた若者の背中を、人差し指がつついた。
「順番、守ってください!」
「ぁ?」
「その人と話しているのは、僕ですよ?」
「…関係者じゃねぇか‼」
いやぁぁぁぁああああああああああああああああ‼
「見ろ‼たんこぶどころか、血ぃ出てんだぞ!血ぃ‼」
「ええと、なんか、…すんません」
「ゴメンで済んだら警察いらねぇだろ⁉慰謝料払え、慰謝料‼」
気圧された勢いを倍返しで詰め寄ってくる若者に、俺はしどろもどろしてまともに答える事ができない。できる筈がない。できるわけねぇだろコラ。
ふと、その後ろでため息が漏れた。
「仕方ありません」
「へ?」
「僕が代わってお詫びしましょう」
いや、お前のせいなんだよ‼
同時にツッコミかけた俺と若者だったが、目の前のぽわぽわした笑顔に向けて怒声をぶつけるなんてできる筈もなく、思わず顔を見合わせ、かけて、逸らした。
「じゃあ、払えよ!慰謝料100万円‼」
「はい、100万円です」
「………え」
ぽんっと札束を渡されて、若者達の時が止まった。
「………え」
今まで一部始終を傍観していた周囲の人々の時も、止まった。その全員が、硬直した体の中で、一点だけ…目だけが忙しく落ち着かない。…札束が取り出された…札束がぎっしり詰められているランドセルから、離せずに。
そんな異様な空気の中、自分に向けられる視線など全く気付かない風に、キノコ頭はもたもたしながらランドセルの封をして、よいしょとそれを背負う。
「さぁ、タコツボを、あれあれあれあれれ?」
そのランドセルを押して、俺は猛ダッシュでその場を立ち去るのだった。
そのまま500mは進んだろうか。人通りの全くない薄暗い高架下に連れ込むと、ランドセルを背負った子供を壁ドンの様に背を押し付けさせる。その顔にはひとかけらの疑いもなく、ただ好奇心で俺の顔を観察しているようだった。
…絵面的にはもー完全に変質者だな、俺。
聞きたいことは山ほどあった。しかし、それは頭の中をぐるぐる回り続けて、口にまで到達しない。ようやく、何とか、単語を一つ二つ吐き出すのが精いっぱいだ。
「お前、何なの、一体、」
「僕はショウです」
「あ、俺はアユムっす」
じゃなくて‼
「その金!何⁉どうやったの⁉」
「全ては神の声に従った結果です」
…会話になってねぇ。
「…えーと、つまり、宗教法人?寄付とかお布施とか?」
「いえ、株です」
「株ぅ⁉」
想像外の答えが返ってきた‼
「今朝も朝日の輝きと共に僕の枕元に立ち、神はおっしゃいました」
その情景を思い浮かべているのだろうか。キノコ頭は空から降る光を受け止めるように右手を掲げ、恍惚とした表情でその宙へと目を泳がせた。
「〝その株をカラウリしろ〟と」
「神、カラウリとか言わねーよ‼」
うちゅーじんの電波とかじゃねーの、それ⁉
横を向いたまま視線だけで見降ろしてみる。…すっごい、澄み切った瞳だなぁ。その表情には笑顔しか、幸せしか、喜びしか、ない。天使としか形容できない可愛らしさで、キラキラと瞳を輝かせながら、…タコツボを俺に向けてささげていた。
「…お前の〝神〟って、誰さま?おオシャカさまとかアマテラスさまとか?」
キョトンとして、首を傾けられた。
「僕には神の言葉が聞こえるだけですから」
「あー…」
「神はおっしゃったのです。このタコツボをあなたに売れ、と」
…このビンボー神、どうやったら引きはがせんの?
「あー、いたいた‼いたぞ‼」
「おい!さっさと来い‼」
なすりつける相手を探そうと振り返ったそこに、さっきの若者たちがいた。…さっきとは違って、今度は明確な悪意の光…くすんだ炎をその瞳に燃やして。
まぁ、あのランドセルいっぱいの札束の一つをポイと渡されたらそーなるべな…
俺が右手をポケットに入れている間にも、若者たちはあからさまに俺達を逃がすまいと円陣を組んで囲い込む。その手にはナイフが、チェーンが、スタンガンが、握られていた。それを眺める俺の指は、すでに10円玉を挟んでいる。
こいつを助けるか、逃げるか、…10円玉の目次第だな。
「…さっきの100万じゃ、やっぱ足りなくってさ」
「なるほど。じゃあ」
「その中の金、全部だ」
ただの追い剥ぎじゃねーか。
「分かりました」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべてにじり寄ってくる男達に、キノコ頭はニコニコと屈託のない笑みのまま、背負っていたランドセルをよたよたと前に置く。
「よいしょっと」
「は、早くしろ‼」
パチンと金具が外され、姿を現したのは…そら、それだけ札束が入ってたら重いわな…若者たちは完全にその札束に目を奪われ、だらしなく顔中を緩ませてヨダレまで垂らす。キノコ頭はと言うと、1㎜も変わらぬ微笑みを浮かべて札束を掴む。
「あ」
そこで、不意に手が止まった。
「な、なんだ?」
「…神の声が聞こえます」
「はぁ?」
「〝右の男の頭に、銃を突きつけろ〟と」
男のニヤけ面が凍り付いた。
札束の山から…札束の代わりにキノコ頭が取り出したのは、一丁の拳銃。その拳銃は、余りにも口径が大きすぎた。…いや、もしかしたらキノコ頭の余りにも小柄で華奢なその腕に握られていたから、そう見えてのかもしれない。
まぁ『銃』だって事が重要なのだけど。
「そ、そん…なの、人に突き付けていいと思ってんのか⁉」
「はい!」
それは、すっごい満面の笑みで、とっても元気のいい答えだった。
「神の言葉ですから」
「ひ、ひぃぃぃぃいいいいいいいいいいい‼」
銃を見て、男達は情けない悲鳴を上げながら算を乱して逃げ散った。それが本物かどうかとか、華奢で小柄な子供から奪い取ろうとか、…まぁ、もしかしたら脳内妄想ではやってみたかもしれないけど、現実にやるバカはさすがにいなかった。
ただ一人、頭に銃を突きつけられた男だけがこの場に残っていた。…正確に言えば、泡を吹いて失禁した体だけここに残して、心は逃避してしまったのだけど。
そして、天使の微笑みが俺へとむけられた。
「これが〝神のチカラ〟です」
「銃のチカラだよねぇ⁉」
今、俺の目の前で犯罪が行われて、俺の目の前に犯罪者がいる、…よねぇ?この屈託のなさすぎるあどけない笑顔を見ていると、自信がなくなっていくのだけど…
「銃刀法違反って、知ってる?」
「はい」
「…それ、もっていいの?」
「はい」
ああ、やっぱ免許みたいの持ってんのか。
「神が〝それを持て〟と言いました」
「………」
うん。深くツッコむのはやめよう。
達観した俺の顔を見て、キノコ頭がはにかむように笑う。そして、大きな瞳をくりくりとさせて俺を上目遣いに見上げた…銃を、顔の前に掲げたまま。
「タコツボ、100万円で買いますよね?」
カツアゲじゃねーか‼
「…俺、100万円なんて持ってないよ」
「じゃあ、100万円くれるまで、ず~~~~っと一緒にいますね!」
マジかと思って、その目を…見るだけ無駄だった。キラキラと輝いた澄み切った瞳で微動だにせずにただ俺だけを見つめていらっしゃる。試しに数歩歩いてみると、…ついてくる。ちょっと早足にしてみると、駆け足でついてくるな…
「はわわわわわ!」
ばんっ
「転んだ拍子に銃を撃つなぁぁぁぁあああああああああああ‼」
周囲を見回す…ゴミ箱をひっくり返す音にビビった、けど猫だった。…誰にも見られてねぇな。いや、なんで犯罪者側の視線に立ってんだよ、俺。でも〝神の声〟でポリ相手でもぶっぱなしそうだもん。逮捕=タコツボ販売の邪魔、だから。
まぁ、100万円を払えばいなくなるんだろうけどさ、さすがにその金額をポンとくれてやる財力はないぞ、俺。500円じゃダメなんだろうか。
国家権力を越える暴力を持ち、100万円をポンと用意できるヤツ。か…
「………」
そんなの、一人しか思いつかねぇ。
思うより先に電話を握っていた俺の手元を、キノコ頭がのぞき込む。なんだよ、そのワクワク顔は…一々、挙動と表情の可愛い生命体だな。
「もしもし、…ああ、仙人様ですか」
電話の向こうの女性の無感情な声が、俺と知ってさらに倍加した。
「アンさん、リョウマいる?」
「(………)少々、お待ちください」
…今の(間)に「あなたごときの為にリョウマ様の貴重過ぎるお時間を取らせるなんておこがましいと思うなどと期待するだけ無駄と分かっていますがゾウリムシがリョウマ様を呼びつける滑稽さくらいは気づいてください」…くらいの圧を感じた。
俺が電話したのは忍者屋敷で、呼び出したのはニンジャマスターだ。
「ニンジャマスターに銃は効かん」
と言って、実行して見せたのが一度じゃないからな。〝運命〟を都合よく操作できるあいつに、銃弾は当たらない。さらに言えば、親方日の丸がバックについた権力側の人間だからな…ついでに、俺の頬を札束でひっぱたいて給料を渡した男だ。
銃、金、権力…今回の一件、リョウマ以上の逸材は思いつかない。
「なんだ?」
その美女を思わせる秀麗な容姿にしては、リョウマの声は低い。声を聞けば一発で男だと分かってしまう。…ほんと、口を開きさえしなければ、顔は綺麗すぎるのに。
「銃刀法違反者がいるんだけど」
「俺の事か」
ぶちっ
「………」
うん。気のせいだな。
「100万円借りられそうでした?」
…絶対である神のお言葉通りに事態が進むのが当然、という思考なんだろうな。俺の電話を借金のお願いと信じて疑わない、まっすぐな瞳はキラキラ輝いている。
勿論、俺は無視して先に進んだ。
「何を質に入れる事にしたんです?」
「何も質に入れねーよ」
「でも、ここ質屋ですよ」
かつ、俺の家だ。
繁華街の裏通りにぽつんと立っている純日本家屋、とゆーか木造昭和家屋。黒瓦に映える黄色い文字で『やしち』と書かれているそこが俺の家だ。
…うーん、執拗に『しちや』の〝や〟の字を先頭に持ってくるのは誰だ?
「あら、アユムちゃん」
引き戸を開けて店中に入った俺を出迎えた、茶色いセミロングパーマのOL風女性は姉貴だ。店の売り上げを数倍にはね上げた、この店の事実上の店主である。ちょっと彫が深い美人顔で、うちの売り上げを数倍にはね上げた、才色兼備の姉ちゃんだ。
店内に客の姿はない。いつもよりも空虚に感じるのは気のせいだろうか。『貴金属お売りください!』のポスターの端がめくれ落ちているから、じゃないべな。
たった一人、天パ頭の着流し男が座っていた。
「よ、おっひさ~」
「ふつーに俺んちにいんな‼」
フレンドリーに話しかけてきた男の顔は、傷だらけだ。その最大の傷は左目の空洞…なのだけど、今は刀の鍔製の眼帯で覆われていた。実は、あの着流しの中身も全身傷だらけだったりする、見るからに反社会…っつか、まんま無法者だよ。
そもそも日本刀を脇に置いてるしな‼俺の周り、銃刀法違反者ばっかか‼
「あ、やっぱり、キョーセイさんと知り合いなの?」
「キョーセイさん⁉」
「ダイ・キョーセイです」
名前みたいになってんじゃねぇよ〝大凶星〟‼
その名の通り、こいつは〝大凶〟しかない男。愛する家族も、恋人も、友人も、全て不幸のどん底に突き落とす男で、何故かと言えば〝こいつを苦しめる為〟なのだから、死ぬ方は浮かばれない…そして、苦しみ続ける為に簡単には死なない男だ。
っつか、いつの間にか頭にコブできてんぞ…
「さっき、いきなり商品が落ちてきたのよ!10万円のツボ!」
「…こいつのせいじゃねーの?」
「そんなわけないでしょ!…そういえば、彼が来てから、お客来ないわね」
「…こいつのせいだよねぇ?」
「違うって!むしろ、次々とくる泥棒や酔っ払いや変質者から守ってくれたの!」
「…それ、次々とくるの、こいつのせいだろ?」
俺の言葉は、姉貴の耳に全く届いていない。…なんか、体中からハートが溢れ出てるぞ。店の中がら~んとしてんの気のせいじゃねーじゃねぇか‼
「…姉貴、悪い事は言わんから、こいつはやめとけ」
「なんで?」
「ぶっちゃけ、…こいつの愛した女はみんな死んでんだよ」
「私は大丈夫だけど?」
笑顔で振り返った、と思ったら真顔だった。
「…私は、全く、全然、1㎜も、愛されてない。って事なのかな」
「え」
「だって、なにも、おきないし。いっしょにいるのに、おかしいな」
「違う違う違う違う!違いますよーーーーー‼あくまで噂!噂だからさ‼」
いかーん‼姉貴が今にも泣きだしそうだ‼何か…何か、話題を変えるもんは…右を見ると、タコツボだな。左を見ると、タコツボだな。後ろを見ると、…大凶星が流血してんぞ…そして前を見ると、タコツボが…って、イヤガラセやめーーーーい‼
ああ、そうか、これか。
「姉貴!このタコツボを質に、100万円くんない?」
「…ぁん?ざけんな、コラ」
すっごい睨まれた‼姉貴、切り替え早すぎ‼
「…ま、いいとこ、100円ね」
「え?そうなの?」
「裏に値札が貼ってある」
あ、ほんとだ。『¥100』
不審で細くなり過ぎた俺の目に入ってくるのは、…ボールを投げてくれるのを待つわんこ、だな。期待に満ち満ちた瞳を輝かせて、俺の言葉を待っている。
「…これ、どこで手に入れたの?」
「そこのスーパーで100円で買いました」
向かいのスーパーのバーゲン品‼
「それをなんで俺が100万円で買わなくちゃいけないんだよ‼」
「神の言葉は〝絶対〟なのです」
〝絶対〟…こんなにも愛らしく微笑んでいるのに、山より動かせる気がしねぇ。白いコートにランドセル背負った無害な装いで…どう考えても違法な押し売りカツアゲされているのに、愛らしすぎて強く拒絶できねぇ。なにこいつ…
「なら、100万円の値札をつけてウチの質屋に並べておく、でどうよ?」
「いいですよ?」
「じゃあ、姉貴。置いといて」
振り返ったそこに、姉貴はいなかった。代わりに、ではないのだけど、大凶星が頭から湯飲みを被って悶え床を転げまわっていた。それで救急箱とりに行ったのか。
…っつか、何でこいつ、振り返るごとに傷だらけになってんの?
「大凶星だからな‼わっはっはっはっはっ‼」
「………」
「あれ?どこ行くの?」
「お前と一緒にいたら、悪い事が起きるに決まってるからな‼」
玄関の引き戸を開けた俺に、…いくつもの銃口が突き付けられた。
「…ほら見ろぉ‼」
「俺のせいなのぉ⁉」
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