てる

第1話

世の中文字に起こすまでもなく下らないことはごまんとあるのに、それに目を向けないとは低脳な者ばかりだ。高校初期の自己紹介演説で全校前に傲慢を晒し、今日も教師と学友の目が痛い。元より傲慢な程に高くあった気ぐらいは、心中から片時も漏らさずしまって置いたものだが、その日ばかりは物の憑いていたことに違いないだろう。翌朝から蓮と隣り合う席にクジが回った者は、普段から端の席でこじんまり昼食を食べていた者達にその紙切れを押し付けるようになった。もともと孤独を悪しとしなかった蓮は、其方がそのつもりならこちらとて擦り寄り親睦しようとも思わないと言い、以降彼らに近づいて行こうとはしなかった。ある日決まった席順で、蓮の周りにそんな男どもが四人ちょうど固まった。いよいよ押し付ける先も空きなしとなった彼らは蓮の席クジをひったくって、十一とあったのを四十四と書き換えてしまった。蓮は無抵抗でこれを傍観していたが、同じように見ていた教師が席を移れと言ったのには流石に激怒した。自分の母よりずっと若い教師を睨みつけてから、主犯の男の襟首をつかんでドアに叩きつけた。あまりの迫力に子分共も萎縮して、腹部に二度蹴りが入るのを黙って見ていた。その間も止めに入らなかった若教師には、後に蓮も愛想をつかした。後からこの件を問題にしたとき、蓮に停学が言い渡されなかったのはどう考えても異常である。

事件の翌日から教室の空気は一変した。蓮は遂に自分を掃けようとする勢力が実力行使に移るかと覚悟をしていたが、現実は真逆であった。部屋の扉をガタガタと開けて入るや否や直ぐに悪餓鬼四人がやって来ると、蓮に会釈して詫びて来たのだ。蓮は動揺を一片も外に出さずに、あぁとだけ言って四人の頭を一つずつ殴ってから席を引いた。どういうわけか、これを見ていた女共は一人残らず蓮に惚れた。以降悪餓鬼四人は蓮を敬遠し、他の男は度々話しかけてきては全て連に同調するという純朴さをみせた。更にそれまで中立的に男共の諍いを眺めていた女共のうち大勢が、蓮に言い寄って身体に触れてきたり悪餓鬼四人を蓮と比較して悪く言うようになったのだ。これには流石の悪餓鬼共も素の粗暴な行を繰り返しかねないほどに苛立ったが、蓮がそんな女共にも興味を示さないのを見て黙っていた。

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