第36話 レベル??のダンジョン〜魔王が弱すぎた件〜

自分の体と地面を濡らしているものが、自分の体から流れ落ちた血だと気づくまでに時間がかかった。

体は熱を持っているように熱かった、必死で起き上がろうにも指の一本すら動かせない。


『なんでこうなったんだっけ?』


ショウは地面に倒れる直前のことを思い出す。

ダンジョンの中で以前であった旅人のレナードが急に現れたこと。

彼が魔王と名乗ったこと。

彼の体から魔力が溢れ出したこと。

そして彼の姿が消えた瞬間体に力が入らなくなったこと。


『そうか、俺負けたんだな・・・』


斬られた瞬間のやつの姿は全く見えなかった。

やつと戦う前にモンスターを倒しすぎてレベルが上がりすぎたのだ。


『レベルがマイナス999の俺なら負けないのに・・・』


しばらくすると、あれだけ熱かった体が凍えるほど寒くなった。

体の内側の寒さは感じるのに、外側の感覚は無い不思議な状態だ。

視界がだんだん暗くなる、意識も薄くなってきた。

体の寒さが消えるのと同時に、ショウの視界は闇に閉ざされた。




ショウは心地よい冷たい感触を体に感じて目を覚ました。

それはショウが忘れることがない感触だ、毎晩抱きしめているのだから間違えるわけもない。


「スライムちゃん!」


ショウは飛び起きると目の前のスライムちゃんを抱きしめる。

スライムちゃんも嬉しそうに(?)体を寄せてきた。


「そうだ!あいつはどこにいった?」


ショウはそばに落ちていたカタナを握ると、スライムちゃんを抱きしめたまま立ち上がる。

周りを見渡したがレナードの姿はどこにもなかった。

自分が倒れていた場所を見るとかなりの血が流れていた、この出血では助からないと思い立ち去ったのだろう。

血だらけの服を脱ぐと体には右肩から左足の付け根まで一直線に傷跡が残っていた。

スライムちゃんを入れていた箱も斬られて開いていた、そのおかげでスライムちゃんは外へ出れたのだろう。


「また君に助けられたね」


ショウはスライムちゃんを抱きしめると、現在の状況を確認した。

ステータスはマイナス999、体力は少しだけ減っていたが魔力は完全に回復していた。

スライムちゃんのステータスを確認すると、なんとレベルは999全てのステータスはオールSSになっていた。

そしてショウと同じように体力が少しだけ減っていた。

それを見た瞬間、ショウの心に激しい怒りが湧き上がってきた。

斬られた箱、そして減っているスライムちゃんの体力・・・


「やつは絶対に俺が殺す」


スライムちゃんを傷つけるなんて絶対に許すわけにはいかない。

ショウは上半身裸でスライムちゃんを片手に抱きしめたまま、もう片方の手にはカタナを手に全身血だらけのまま奥へと進むのだった。


しばらく進むと大きな広間のような空間にたどり着いた。

地面には魔法陣のようなものが描かれ、中心には檻が置かれていた。


「ショウ様・・・ですか?」


檻の中には見覚えのある女性がいた。

ピンクの髪に整った顔立ち、いつもとは違う花嫁衣装のような格好をした聖女だった。

彼女は血だらけのショウを見ると口元を抑えて慌てだした、どうやらショウが大怪我したと思ったらしい。

ショウは檻の鍵を引きちぎると聖女を外へと出す。


「こんなところにいたんだな。俺は今から魔王を殺しに行くから聖女様は先に帰ってくれ。途中のモンスターは全部倒したから安全なはずだ」


聖女の目には涙が浮かんでいた、よほど怖かったのだろう。

彼女はショウが怪我をしていないことを確認すると、血で汚れることも気にせずに抱きつこうとしたがスライムちゃんに弾かれていた。

服についたホコリを払い何事もなかったかのようにショウの方を振り返る。


「助けに来てくれると信じてました・・・指輪の糸が消えてもあなたは来てくれるって」


指輪の糸が消えても?

聖女の言葉に指輪を確認すると、指輪には傷がついていた。

やつに斬られた時に指輪も斬られていたようだ。


「指輪傷つけてごめん、魔王を倒したら直しに行くよ」


聖女はショウの手をしっかりと握りしめた。

この程度ならスライムちゃんも邪魔しないようだ。


「あなたが無事なら指輪なんて良いんです・・・必ず帰ってきてくださいね」


聖女は目に涙を浮かべながら、それでも懸命に笑顔を作っていた。

彼女が出口へ走っていくのを見送った後、ショウは奥へと向かった。


さらに奥へ進んでいくと城にあるような豪華な大扉が現れた。

扉を開いて中へ進む、部屋の中は城の謁見の間とそっくりだった。

違うとすればここはダンジョンの奥深くで、座っているのは王ではなく魔王ということだ。

玉座にはレナードが座っていた。

黒い鎧を身にまとい、隣には大剣が立てかけられていた。


「驚いたな、なんでお前が生きているんだ?」


レナードはショウを見ると少しだけその表情を歪めた。

大剣を手に玉座から立ち上がり、その切っ先をショウに向ける。


「真実の愛の力さ。最愛の人(?)を傷つけた罪、償ってもらうぞ」


ショウはスライムちゃんを優しく地面に下ろす。

レナードに向き合うと、同じようにカタナを構えた。


「死にかけて頭がおかしくなったか。今度は迷うなよ」


レナードの姿が消えたが、今のショウには彼の姿がはっきりと見えていた。

振り下ろされる剣をカタナで受け止める、二人の間に激しい火花が散った。

ショウとレナードの最後の戦いが始まった。


レナードが振り下ろす剣に、ショウはカタナを合わせて防いでいく。

前回は消えたように見えたレナードの動きも、今のショウにはまるで止まっているように見えていた。

遅すぎる、こんなやつに自分は負けたのか。

ショウは剣を弾いた隙をついてレナードの腕を斬り落とす。

そのまま首を切り落とそうとしたが、距離を取られてしまった。


「この私に傷をつけるなんてね・・・いいだろう、本気で殺してあげよう」


レナードの体から魔力が溢れ出す。

斬られた腕が再生しその体が大きく膨れ上がった。

まるでオークのような体型になったレナードが大剣を片手にショウを見下ろす。


「この姿になるのは100年ぶりだ。本気を出させてくれたお礼に一欠片も残さず殺してあげよう」


ショウは振り下ろされる大剣めがけてカタナを全力で振るう。

大剣を根本から斬り落とすと、返すカタナで両腕を肘から斬り落とした。


レナードが悲鳴を上げて膝を着く、斬られた両腕で体を支えショウを見上げていた。


「それはこっちの台詞だ。スライムちゃんを傷つけたお前は一欠片も残さずこの世から消してやる!」


レナードは困惑した表情を浮かべていた。


「スライムちゃん?お前は世界のためじゃなくスライムごときのために私と戦っていたというのか?」


スライムごとき?今こいつはスライムごときと言ったか?

ショウの心に再び怒りが湧いてきた。

レナードの体をこの世から一欠片も残さず消すために、ショウは全魔力をカタナに込める。


「世界なんかどうでも良い・・・スライムちゃんを傷つけたお前が許せないだけだ!」


ショウはレナードに向けてカタナを振り下ろす。

振り下ろされる直前、レナードはこう思った。


『化物め・・・』


込められた魔力が解き放たれ巨大な真空刃を生み、レナードの体を一欠片も残さずかき消してしまった。

ダンジョンの天井と壁は大きく切り開かれ太陽の光が差し込んでいた。

自分の血と魔王の返り血を全身に浴びたショウの体が、赤く輝いていた。

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