第35話 レベル??のダンジョン〜魔王の正体がわかった件〜

「こんな時にこいつが出るなんて嘘だろ!」


ショウは聖水の泉での大蛇との戦いを思い出す。

あの時はレベルマイナス999のステータスオールSS状態でも死にかけたのだ。

ステータスが下がった今のショウが勝てる相手とは思えなかった。

動揺しているショウに大蛇が迫る。

カタナを構えているショウを丸呑みにしようと、大蛇が大きく口を開けて突っ込んできた。

ショウは上に飛んでかわし、大蛇の体を両断しようとカタナを振り下ろした。

だが大蛇の尻尾によって吹き飛ばされてしまった、とっさに腕でガードしたが衝撃で壁に叩きつけられてしまう。

地面に落ちるショウに向かって蛇がその巨体を叩きつけてきたが、次の瞬間なぜか突っ込んだ大蛇の体が切り裂かれていた。

咄嗟にショウは体の前でカタナを構え両手で支えていた、カタナの切れ味と大蛇の突っ込んでくる力を利用したのだ。

体を斬られ激怒した大蛇が大きく口を開けて突っ込んでくる。

怒った大蛇の動きは単調だった、ショウはその突進をなんなくかわすと首めがけてカタナを振り下ろす。

以前戦ったときと比べて能力は下がっているが、今は武器の性能が違う。

カタナは大蛇の首を難なく両断した、ショウは切断されてもまだ動いている大蛇の頭にカタナを突き立てる。


「怖かったけど何とか勝てたな」


ショウは灰になっていく大蛇を見下ろしながら額の汗を拭う。

以前戦ったよりもだいぶ楽に勝てた、武器の差もあるが大蛇自体も弱かった気がした。

安心したのもつかの間、これで終わりではなかった。

ショウの後ろからいくつもの音が近づいてきた、振り返ったショウの体が固まる。

ダンジョンの床を白く塗り替えるほどの大蛇の大群が迫ってきていた。



ショウはダンジョンの中を全力で走る。

後ろからは大蛇の大群が地面を滑るようにして追ってきていた、さすがに今の状態ではあの大群に勝てそうにない。

ショウは逃げながらステータスを確認する、現在のレベルはマイナス324魔力は残り4000ちょっとだ。


「やるしか無いか・・・」


ショウは覚悟を決めてカタナを構えて振り返る。

向かってくる大蛇たちにではなく、ダンジョンの天井めがけて残りの魔力全てを込めて真空刃を飛ばした。

ダンジョンの天井が切り裂かれ、落石によって通路は塞がれてしまった。


「うまくいった・・・のか?」


ショウは塞がれた通路を眺めながら安堵のため息を漏らす。

少しの隙間もないほど通路は塞がれていた、岩の向こうでは大蛇が体当りしているようだがしばらくは大丈夫だろう。

ショウは周囲を確認して安全を確かめると、岩を背に座り込みスライムちゃんを抱きしめる。


「ダンジョンの中だけど、君の力を貸してほしい」


スライムちゃんを抱きしめていると体の疲れが嘘のように消えていった。

ステータスを開いて確認するとレベルが下がるたびに体力と魔力が回復している、これならばまだまだ戦えそうだ。

5分もしないうちにレベルマイナス999まで戻る、その時には体力も魔力も完全に戻っていた。


「よし、いくか!」


ショウはスライムちゃんを箱へ戻すとカタナを抜いて立ち上がる。

通路を塞いだ岩はまだ揺れ続けている、大蛇たちは諦めていないようだ。


「あいつら倒したらレベル上がって魔力も減っちゃうし、遠慮せずに使うか」


ショウは通路を塞いだ岩めがけて魔力10000を込めて真空刃を飛ばす。

真空刃は岩を両断しそのまま奥へと飛んでいった。

斬られた岩が崩れ落ち通路が開かれると、岩の向こう側はあたり一面灰で覆われていた。

ショウの予想通りこの大蛇たちは以前戦ったやつよりも弱かったようだ。

たった一回の真空刃で全滅させることができた。

ステータスを確認するとレベルはマイナス231にまで上がっていた、大蛇たちは弱いくせに経験値だけは多かったようだ。


「これはまたスライムちゃんにお願いしないとな」


ショウがスライムちゃんを箱から出そうとした瞬間、ダンジョンの奥から音が聞こえてきた。

ショウはカタナを構えて音のする方へ構える、近づいてくる音は人の足音のようだった。

こんなところに人間がいるわけがない、人型の魔物だろうか?


「あんたが・・・なんでこんなところにいるんだ?」


ショウは現れた人物を見て驚きの声をあげた。

長い銀髪を揺らしながら近づいてくるその人物は、ボロボロの茶色いローブを身につけている。

それはショウが以前森で出会った旅人・・・レナードだった。


「やぁ、また会ったね。できれば君とはもう会いたくはなかったんだけど、どうしてここがバレたのかな?」


レナードは以前会ったときと変わらない調子で話しかけてきたが、その表情からは全く感情が読めなかった。


「愛の力、とでも言っておこうか。それで、なんであんたがここにいるんだ?」


ショウはカタナを下ろさない、一瞬でも警戒を解けば殺されそうな気がしたからだ。

レナードはそんなショウの返事を聞いて笑っていた。


「面白いことをいうね。あの娘からは何も感じなかったけど何か特別な物でも持ってるのかな?あとでゆっくり調べさせてもらうよ。それと、私がなんでここにいるか気になっているみたいだけど君はもう気づいてるんじゃないかな?」


レナードの口ぶりからするに聖女はここにいるようだ。

ショウはカタナを構える手に力を込める、斬りかかろうとしたが隙がなかった。


「あんたが・・・魔王なのか?」


ショウが答えた直後レナードの身につけていたローブが吹き飛ぶ、レナードの体からはとてつもない量の魔力が溢れ出していた。

溢れ出た魔力は空気を震わせる、まるでダンジョン全体が揺れているようだった。

レナードはショウのカタナと同じような素材でできた黒い鎧を身に着けていた、その手にはいつの間にか黒い大剣が握られていた。


「その通り、私は君たち人間が魔王と呼ぶ存在だ。早速で悪いが、死んでもらうよ」


言い終わると同時にレナードの姿が消え、次の瞬間レナードはショウの後ろに立っていた。

手に握られた大剣からは血が垂れている、ショウは体から血を吹きながら地面に崩れ落ちた。

レナードは剣を振って血を払う。

ピクリとも動かないショウをその場に残し、ダンジョンの奥へと戻っていった。

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