第7話

 そんなある日、番兵の見張っている前で、木は突然ぐらりと傾くと、どうっと倒れてしまいました。

 すさまじい音がそこいらじゅうに響き渡り、地がいつまでも揺れ続け、まるで大きな地震が起きたかと思われました。

 枯れた枝が地面にあたるたびにばきばきと音を立てて折れました。

 積もった葉の上に木が倒れたので、ざわざわと一つの森がつぶれるような音がしました。

 たくさんの葉が、まるで嵐のように長い間、宙を舞って、そうしてやっと静かになりました。


 番兵が走りに走って城へ行き、木が倒れたことを報告すると、その日のうちに、王様直属の学者たちが揃ってやってきました。

 学者たちが仔細に木を調べると、どうやら木は土の中の根から折れているらしいのでした。

 そこで土ごと掘り返してみることになりました。

 すると、ずいぶんと遠くから蟻の巣が木の根まで延びてきていて、なんと、根っこは深く齧り取られていたのでした。

 木は、その根をたくさんの蟻に齧りつくされたために枯れて倒れたのでした。


 学者たちがそのことを王様に伝えに城へ帰った後、番兵は蟻に尋ねました。


「蟻たちよ、なぜこんなことをしたのだ。

 大事な木が、とうとう枯れてしまったではないか。

 王様もお后様も、もう木の実を召し上がることができなくなってしまったのだよ」


 すると、そこにあの蟻が出てきて応えて言いました。


「お礼ですよ、兵隊さん。

 僕たちはあなたにお礼をしたんです。

 あなたは僕たち一族をずっと養ってくれていたんですから。

 これであなたはやっと解放されるじゃないですか。

 ジャムを拵えるのが上手な奥さんと一緒に、故郷へ帰れるじゃないですか。

 …それなのに、どうして、そんな悲しそうな顔をしているんですか?」


 蟻は、喜んでくれると思った番兵がしょんぼりしているので、不思議に思いました。


「そうか、おまえは、この木がなくなれば、わしたちが故郷へ帰れると思ったのだなあ…」


 番兵は蟻に、病気の奥さんが故郷に帰りたがっていると、ふと漏らしてしまったことを思い出しました。

 蟻たちが、自分たち夫婦のために一族を上げて頑張り続けてくれたこともわかりました。

 そして、自分の任務にほころびはなかったかもしれないが、蟻に不用意に自分の気持ちを打ち明けたことがこのような事態を招いてしまったことに責任を感じました。

 そのために、自分の軽率さを恥じて、深く後悔しました。


 しかし、番兵は立派な兵隊でした。

 自分がどんな咎(とが)を受けることになっても、その非は自分だけが被ろうと固く決心して、明るい声で言いました。


「なるほどなあ。

 これは、わしたちのためを思ってしてくれたことだったのだなあ。

 …ありがとうよ。ここまでするのは、さぞかし骨が折れたろう。

 ああ、これで国へ帰れるよ。

 確かに帰れるとも。

 

 …蟻よ、おまえとおまえの仲間たちは元気でいるのだよ。

 おいしいえさがこれからもいつも十分に見つかるよう、祈っているよ」

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