星を見てた




歩きながら

星を見てた

かろうじて

カシオペア座はわかった

水溜りにはまった

サンダル履きの足が濡れた



まだ着かなかったから

北斗七星を探した

5つ目まではわかった

歩道のブロック塀に

むき出しの小指を当てた



君の部屋に着いた

抑えきれずに

手帳を開いた

今日の日付に

僕の名前があった

鉛筆で書かれていた

あとで消しゴムで撫でられる

僕の名前があった



猫の方が先に帰ってきた

右足だけを床に乗せて

僕を確認してから

また外に出て行った

舌打ちをした

部屋の明かりを消した



大き目のヒールの音でわかった

君が帰ってきた

「あら来てたの」と言った

僕の気持ちも知らないで

真っ直ぐキッチンに向った

ビニール袋ががしゃがしゃ音を立てた



猫が一回鳴いた

僕のときはすぐに外に出て行ったくせに

猫はもう一回鳴いた

君は猫に話しかけた

僕にはほんの一言だったのに

君は愛想を猫に振りまいた



僕は後ろから抱いた

「なに?」と迷惑そうに言った

僕は手を解いて

早足で玄関に向かい

靴を中途半端に履いたまま

外に出て行った



ドアが閉まる音だけ妙に大きくて

だけど僕を呼ぶ声はなく

耳だけ後ろに集中させて

真っ直ぐ前を向いて歩いたけど

ヒールの音はしなかった



しょうがないから

歩きながら

星を見た

カシオペアも

北斗七星も

見つけられなかった






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