赤黒い月




初めて見た子どもの頃

そのときは夜中だった

家族中が眠りについても

僕は必死に起きて待った


そしたら

先生の言ったとおり

親が言ったとおり

テレビで言ってたとおり

ほんとうに 欠け始めた

当たり前だけど

音もなく欠け始めた


欠け始めるまで長く待ったから

そこから月が無くなるまで待つのがさらに大変だった

月をじっと見つめていることが辛くなって

もう何度も読んだ漫画本を見たりしながら

時々 顔を上げて欠け具合を確認した


全部 欠けて月が赤黒くなった時

僕は家族中を起こしたくなるのを我慢して

赤黒い月を息を呑んで見守った



ビデオカメラがない時代

皮肉にも

だから 覚えていられる



無邪気な子どもの頃の話だ





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