気休めを僕にくれ




ラジオのスイッチを入れると“サビ”が聞こえてきた

また 誰かが誰かに応援歌を歌っている


耳障りのいい歌詞が次から次へと発せられ

最後に季節の花の名前が出て曲が終わった


リクエストした人の文面には決まり文句のごとく

「元気をもらいました」



テレビを点ければ また 誰かが誰かに応援歌を歌っている

歌詞は決まって

「××だったけど、今では○○なんだよ」

過去なんて大概 間抜けで そして 後で美しく見えるものなんだよ


歌詞の終わりで「君に逢えた奇跡」

君はいったい何人の人に言ったんだい?

奇跡は二回無いから奇跡なんだよ



重い言葉は軽いメロディには乗せられないよ

ましてや軽い僕には口にできない


君の歌からは元気なんて貰えない

僕のことなんて知りもしないのに

気安く「元気を分けてあげたい」なんて言わないでくれ



春だからって

応援歌なんていらない

その季節だからって

花の名前を持ち出さなくてもよろしい


ただ

気休めを 僕にくれ

気を休ませてくれるだけでいいんだ



君の歌は僕を励ましてなんかくれない

僕が抱えている問題を解決なんてしない

だから 

気休め でいいんだよ




気休め だってかなり難しいものだよ





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