切っ先




その夜がどんなに刺激的な夜であっても

寒さに震えながら精一杯最後の羽を鳴らす虫たちは知らぬまま

いつものねぐらに帰ってこない仲間を心配する鳩は居ないまま



何十年に一回の宇宙の塵の祭典に人々が目を奪われている間も

音も無く

眩い光も無く

夜の向こう側からかろうじて届く光に映し出され

鋭きその切っ先を蒼い空に突き刺したままだった




奥が深そうで怯えていたのに

とうとうその尻尾すら掴めぬまま最後までしたり顔を決め込んでしまった


軽そうで馬鹿にしていたのに

底知れぬ優しさと時折見せる気遣いに目を奪われて言葉を失ってしまった


太刀打ちできないのを知って馬鹿話に興じることにしたけれど

現実が全ての奴を相手に自分だけの妄想を語り続けることにも疲れ




やっぱり外に出て その切っ先が空に刺さったままなのを確認したら

音信が不通のあいつにも

メールのレスが来ないあいつにも

手紙の返事がずっと来ないあいつにも

誰だか顔も忘れてしまったあいつにも

みんなに同じ短い文と二つの切っ先を携えた写メを送ってやったんだけど



15分歩いて コンビニで弁当とお茶まで買ってさらに歩いているのに

マナーモードの携帯は震えることはなかったし

夜空を見上げれば その切っ先を怖れることなくいくつもの塵が落ちていった


まさかな と思ったけど

それは やっぱり 俺の目に滲んだ涙のせいではなかった




「会いたい」

ではなく

「今から会いに行く」

と打てば もしかしてポケットの中で震えたのかもしれない





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