雲の隙間




ある易者がこう言った

「あなたは、自ら人を愛そうとはしない人だ」


名前と生年月日と出生地を聞いただけで

こうズバリと言うものだから少し腹が立ったけど 

あながち的を得ている診断のような気もした




ある医者がこう言った

「あなたは、ご自分の体の状態を理解しておられないようだ」


簡単な問診と身体の数箇所に聴診器を当てただけで

こうズバリと言うものだから少し凍りついたけど

反論するほどの根拠を持ち合わせていないこともまた事実だった




ある女がこう言った

「あなたは、自分が傷つかないように保険をかけて冒険しているのよ」


生命保険以外はかけていないことを知ってか知らないか

こうズバリ言うものだから少し驚いたけど

「お前に言われる筋合いはない」と言い返すことはできなかった




「自分 ってなんだろう」

と 少し考えたけれど

それは 他者から自分に吐かれた言葉の反芻か

慰め言葉を溜息混じりで探す作業であることに気がついたから

やめにした




せめて 雲の隙間から月が出ていればいいのに





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