誰かが言っていた

「夜に爪を切るのはよくない」


前に爪を切った時間なんて覚えていない

ただ パチンと切るたびに思い思いのところへ飛んでいくだけ

昨日の新聞紙が全く役に立たないところへ飛んでいくだけ




誰かが言っていた

「爪を切っているときの自分の口はどうなっている?」


自分の口のことなんて覚えていない

ただ 灰皿に落とした爪が嫌な匂いをさせながらパチパチと音を立ててるだけ

あの夜の彼女の背中に立てた爪が焦げる音だけ




誰かが言っていた

「爪を切っているときの口はきっと結んでいるはずさ」


あの夜の彼女の甘い言葉なんて覚えていない

ただ やすりをかけた深爪が用もなく滑らかなままなだけ

あの夜に 彼女に「痛い」と言われてから意味もなく気をつけている

滑らかな爪が白く光っているだけ





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