僕が今夜眠れなかったのは



僕が今夜眠れなかったのは

ベッドに入る前に

間違って買ってしまったいつもと違う煙草を吸ったから

いつからかパッケージに大きく警告文が載るようになったけど

慣れてしまえばこれもデザインの一部

ああ でもいつもの煙草の味が恋しい



僕が今夜眠れなかったのは

ベッドに入ってから

携帯電話のゲームが思いのほか長く続いてしまったから

もうダメだという絶体絶命のところでの大逆転が何度も続いた

ようやく終わったころには

冷たかったはずの足元が軽く汗ばんでいた



僕が今夜眠れなかったのは

電気を消してから なぜか君の姿が頭の中に浮かんだから

時間にすれば数秒の君の振る舞いや佇まいが何度もリフレインされた

振り切るかのように硬く眼を閉じて

寝返りを繰り返すんだけど

君は僕を離してはくれなかった



僕が今夜途中で目覚めたのは

ようやく振り切った君以外の人の夢を見たから

別に好きだったわけでもないその人と僕は仲むつまじくしていた

目覚めてみると少し恥ずかしくて

そして しばらく見た夢の根拠を探していた

どこにも思い当たるふしは無かった



僕がそのあと眠れなかったのは

落ち着かない胸のうちをこの詩にしたためたから

真っ暗な狭い部屋でただひとつ 明るいPCの画面に吸い込まれそうになりながら

いざとなると出てこないフレーズを探していたけど

結局あきらめてベッドに戻ったら

もう

閉じてあるブラインドの隙間が白くなっていた



もう 秋の虫はその声を止めていたけど

まだ 鳥も目覚めていない

車の走る音もしない

そんな静寂に ベッドの上で僕はかなり焦ってしまった

一日の中でこんな時間があるのか

そして この完全な静寂の中で

これから先の時間も

ただ一人 まだ動いている自分と対話しなければならないのかって



鳥よ 早く起きてくれないか

誰か 朝早い出勤をしてくれないか

いや 徹夜明けの帰りでもいい

風が吹いてくれてもいい

雨が降ってくれてもいい

なんでもいいから

この静寂から


今の自分から

解放してほしいんだ




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