僕は 夜中の信号機
刃物で刺されたことなんて一度もないのに
夜中に 誰かから体中を刺された夢から覚めた
ストーリーも何もなく いきなりその場面は始まった
僕は 予感がありながらも なぜか振り向くことなく
最初 背中の真ん中を刺された
案外 刺された表面はなんともないのに
体の深いところがどろどろと熱くなった感触を覚えた
その後も僕は 見えない相手に背中を向けたまま
一方的にいろいろなところを
切りつけられたり 浅く刺されたり 深くえぐられたりした
首もとの汗を手でぬぐって
そのひとつひとつの刺され方の感触の違いを反芻しながら
日中の熱がこもったままの真っ暗な自室で
僕は 煙草を吸った
落ち着かなかったから
立ったまま煙草吸った
やがて 落ち着きを取り戻すと
自分の部屋が真っ暗じゃないことに気がついた
緑色になったり
黄色になったり
赤色になったりした
窓から見える 交差点の信号機のなんらかの色が
僕の暗い部屋を薄く染めていたのだ
こんな田舎の こんな真夜中に
点滅信号ではなく
朝や昼と同じ規則正しい間隔で緑と黄色と赤を光らせている
そんな信号機に運悪く停車させられる車は あっても十数分に一回だ
ましてや
一方の道路に車を停車させて もう一方の道路の車を始動させる
なんてことは だいぶ眺めたけれど
とうとう一回も無かった
緑になろうが赤になろうが
ましてやほんの数秒の黄色なんて 全く意味が無い交差点だった
僕は いつのまにか刺された感触を反芻することを忘れて
そんな淋しすぎる交差点の信号機のことを思った
“きみは なんのために そんなところで光っているの?”
“ぼくは なんのために こんなところで見守っているの?”
今度 同じような悪夢で 夜中に起きた時は
部屋を明るくして 座って煙草を吸うことにしよう
明け方
僕は かろうじて それだけを決めた
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