引きこもりな私
三宮 尚次郎
第1話
私は引きこもりである。
私はなぜ引きこもっているのだろうか。それを思い出そうと記憶を探っていく。
ああ、なんてことない、取るに足らないことだった。私はゆっくりと目をつぶって、それを鼻で笑う。
いじめとかそこまでのレベルじゃない、ちょっとした人間関係のもつれ、それが私が引きこもりになったきっかけである。
私はそれを取るに足らないものだとしみじみ思う。だが同時に、引きこもりのきっかけとしてはありふれたことではないかと思ってしまう。
最初は、ただ友達に会いたくなくて学校を休んでいた。家族にもそのことを相談して、家の中でもしっかりと行動し、コミュニケーションをとることもできていた。
その結果、友達に会いたくないという気持ちも次第に薄れていき、もう大丈夫かなと思えるくらいになった。
だが、その時から私の中に違う感情が生まれてくる。学校なんて別に行かなくてもいいんじゃないか。私が休んで誰かに迷惑が掛かるのだろうか、いや掛からないだろう、私が休んだ数日はいつもと変わらず進んでいったはずだ。
連続で数日も休んでしまったし、友達に『どうしたの?』『何かあったの?』と聞かれるのも鬱陶しい。
ああ、色々考えるのめんどくさい。それなら行かなくていいや。ストレスやプレッシャーのない生活の方が何倍もいいではないか。
私の中から、学校に行きたくない理由が溢れてきた。本当に甘っちょろい人間だと、絶賛引きこもり中の私ですらそう思う。
だが、自己嫌悪したところでどうしようもないのだ、引きこもりにとっては。自己嫌悪するたび、ただただ精神が病んでいくだけでしかない。行きたくなくなってしまったのだからどうしようもないのだ。
その感情を優先した結果、私はどんどんと闇へ落ちていった。
本当に大した理由ではないだろう。本当に鼻で笑えるくらいの理由だ。まぁ、実際に取り返しがつかなくなってしまいそうな状態だから、安易に笑ってほしくはないけど。
今となっては、家族との会話も減り、いつの間にかトイレ、お風呂以外で部屋から出ることもなくなってしまった。食事に関しても時間になると、お母さんが部屋の前に食べ物を置いてくれるので、外に出る必要はなくなった。
今の私は、食事と呼吸と排泄をするだけの邪魔な存在でしかないだろう。私がお母さんやお父さんの立場だったら、もうとっくに追い出す覚悟をしているかもしれない。
それでも私が追い出されないのは、私のことを大切に思ってくれているからだろうか。それとも、自分たちの子供が引きこもりになってしまったという事実を認めたくないだけだろうか。私には分からない。
家の中にいるのだから、いやでも家族とすれ違ってしまう機会はある。その度に、私は目を合わせないようにして歩く。何もかもから背を向けている私みたいな人間に優しい言葉をかけないでくれと願いながら。
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