第3話 上陸
なるほど、空気がうまいとはこういうことか。穏やかじゃなかった男の心境がすこしだけ平静を取り戻した。後ろから涼しげな風が男の上を駆け抜ける。あたり一面は草が生え茂って、おらず、男を囲むように枯れたサークルが広がっていた。男が目覚めたと同時に、枯らされた大地の上空に飛び回るトカゲに似た獰猛なはずの生き物達が一斉に理性を奪われる。それらは直ちにお互いを襲い始め、やがて翼が破れ次々と墜落していった。男は仰向けのまま瞼を開き、危機感すら抱かぬままにそれらを何の感傷もなく眺め、やがてソレが一匹のみになり、それでもって力尽きて地面に追突し、灰になることを男は確認することもなく、体に立てる程度の力が湧き出るのを確認してゆっくりと立ち上がった。
「視線が低いな」
ひどい倦怠感とともにめまいが押し寄せてくる。それよりも脱力感が気になる。この私が、かつてないほどに弱っていることに驚きを隠せない。額に手を当てようとして違和感にようやく気付く。何だこのきめ細やかな幼い手は。年齢だけでなく、まるで性別まで変わってしまったようではないか!全身をくまなく触り、確信する。
「あんのくそアマが!!」
よくもやってくれたな。今度会うことがあったら手を介さずに辱めて、最後は犬の餌にしてくれる。しかしこれではまるで幼女ではないか。冗談ではない、幼女では権力も金も女も手にできないではないか。いや、できるな。何せ中身はこの私だ。幼女になって少し気が動転したようだ。まずは事実を整理しよう。今の私は信じがたいことに幼女だ。これはすべてあの性悪女神による操作だと考えて間違いないだろう。あれにはいずれ罰を与えるとして、まずは第一村人を探す必要がありそうだ。こんな草原のような場所にいきなり放り込まれて、モンスターは先ほどみたいに自滅させるとしても食料やら水がないと生き残れまい。そして幼女ではそれらの調達も難しいだろう。力がない、体力もない。あるくにも足が短くて、移動が遅い。もたもたしてると日が暮れそうだ。
激情を抑えていき、支配欲や全能感が戻る。そうだ、これだ。すべてを支配する力、本能で理解する。あのくそアマが言ってた固有スキルとかいうやつか。何が与えるだ、劣悪な詐欺じゃないか。口元が吊り上がるのを抑えられない。なんと私にふさわしい力なのだろう。実に素晴らしい!とはいえ、随分と燃費が悪いように感じる。先ほどのトカゲに使ってみてわかったことは、この能力の行使はものすごくスタミナを消費するようだ。連発は厳しいだろう。それに最低限の知性がないものには効かなさそうだ。まぁよい。
幼女になってしまったので、いつもみたいに余裕な歩み方はできない。少し子供っぽいが、脚の回転率を上げる。歩いたところから草が枯れていくようだ。随分と悪いことをしてしまったようだ。ぜひともまた生えてきてほしいものだ。何せいずれはここも私の所有物になるのだからな。
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