思いのゆくえ

夏目

第1話

私の朝は、基本的に幼馴染の部屋のドアを叩く事から始まる。


「翔(しょう)!朝だよ!!」

「・・・」

「起きないと部活遅刻するよ!」

「・・・」

「あーいいんだ遅刻しても。せっかくゼッケン貰えたのに。」

「・・・」

「一回遅刻したら絶対また奪われちゃうよね、無駄にしていいんだ。へー・・。」

「・・・・よくない。」

「じゃあ起きて!!」


翔の声がしたのを確認して一階に下りれば、

翔のお母さんが「ごめんね~いつも。」とにっこり微笑む。


「はいこれ、よかったら食べて。焼きたてよ。」

「わ~おいしそう!ゆきさん、ありがとう!」


手渡されたのはまだホカホカのクロワッサン。

バターの良い香りがして、家で朝食を食べてきたばかりなのに、

お腹が小さく音を立てる。


「あ、そうだこの前もらったクッキーも美味しかった!ありがとう。」

「本当?良かった、また作るわね。」

「やった!!」


ゆきさんとそんな話をしているうちに2階での物音が徐々に大きくなって、

バタバタと階段を駆け下りてく音が聞こえてくる。


「母さん俺のジャージ知らない!?」

「そこに置いてあるわよ。昨日言ったじゃない。」


ドアを開けて現れた翔は制服に身を包んでいるものの、

頭にはまだ寝癖がついていて。


「そんなこと言ってたっけ?あ、あった!!」

「まったくもう・・。」


朝からとぼけてる翔にゆきさんがため息をつく。


「ほら絵未(えみ)ちゃん待たせてるんだから!急ぎなさい!」

「分かってるって!」


洗面所に駆け込んだ翔はしばし寝癖と格闘したものの、

諦めたのか、直すのもそこそこにリュックを背負って。


「悪い絵未、待たせた!」


はいこれ朝ご飯とお弁当、とゆきさんが翔にランチバックを手渡して、

私もローファーを履く。


「「行ってきまーす!!」」

「はい、いってらっしゃい。」


ゆきさんのニコニコ笑顔に見送られながら、

学校への道を歩き始めた。




「やばい、朝練間に合うかこれ。」

「どの口が言ってんのよ。」

「・・ごめんなさい。」


時間を気にしつつ、早足で歩く。


寝癖を右手で押さえながら歩く彼は、幼馴染の翔。

小・中・高と一緒で家族ぐるみで仲が良く、小さい頃から一緒に育ってきた。


翔はサッカー部、私はバスケ部に所属していて、

朝も放課後も部活があって。


そんな彼は朝にとことん弱く、

毎朝起こしに行くのが私の日課になっているのだ。


「いやまって。なんで歩きながらクロワッサン食べてるの。」

「・・だっていい匂いするんだもん。」

「朝ご飯食べてきたんだろ?」

「・・・きた。」

「・・太ってもしらな・・痛い痛いごめんなさい!!」

「ごめーん、右手が勝手に!」


歩きを緩めないまま翔の耳を引っ張る。

そんな私の右手に握られているのはさっきもらったクロワッサンで。

・・だってゆきさんの作るもの全部美味しいんだもん、仕方ないよね、うん。


「出来立てを食べるのが一番じゃんやっぱり???」

「はいはい。」

「なんだよその顔、バカにしてるな。」

「してないしてない。・・俺にも一口」

「いやあんたも結局食べるんかい」


「だって母さんの作るもの全部美味しいんだもん」と言ってモグモグと口を動かす。

私もさっき全く同じ事思ってました。



こんな風にゆきさんからもらった物を食べながら登校するのも、

毎日の事だったりする。

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