黒の少女、光の使徒
ほしむらぷらす
聖都、脱出
小さな路地を兄妹が走り抜けていく。息は上がり、足は泥だらけ。だが、二人は走るのをやめようとはしない。
兄のシンが、妹のマユの手を引きながら背後を見る。そこには兄妹を追いかける甲冑を着込んだ男たちがいた。彼らは、この聖都を守るための騎士たちである。兄妹とは違い、呼吸は乱れることがなく一定のリズムで足音を響かせる。
「くっ……」
いずれ追いつかれるだろうと、シンは苦悶の表情を浮かべた。
「兄さん……もう……」
マユの体力は限界に達していた。それは分かっていた。しかし、このままでは騎士たちに捕まってしまう。せめて、妹だけは……。
シンはマユの腕を力強く引き、自分の前を走らせる。そしてマユに背を向け、騎士たちと対峙し、通さぬよう両手を広げた。
「兄さん! 何をするつもりなの!?」
「いいから先に行け! あいつらの狙いはマユなんだ!」
追いかけていた騎士たちが足を止め、剣を抜く。その中の一人が、一歩前に出た。
「我々とて、君たちのような少年少女を傷つけたくはない。だが、彼女の持つ邪教の力を見逃すわけにもいかない!」
邪教の力――マユがある日突然目覚めた不安定な力。
その力は、太陽の光を遮り闇を生み出す。今までそのようなことができた者はおらず、なぜこのような力が使えるのか分からない。
「少年! 退け!」
騎士の一人が剣を振り上げる。
「ダメ! 兄さん!!」
マユの声が空間の色を消す。
シンは、マユの方を振り向くと、彼女を中心に黒い蛇のような闇が湧き出るところを見た。蛇のような闇が光を飲み込んでいく。
「やはり魔物の類か!?」
騎士たちは蛇に向かって剣を振り下ろす。しかし、それは空を切るようだった。蛇は剣を這い、腕を伝い、騎士たちを飲み込んでいく。
「くっ! 離れない!」
「な、何も見えない!」
シンからも、マユや騎士たちの姿は見えない。ただ慌てふためく騎士たちの声が聞こえるだけだった。
「兄さん……大丈夫?」
シンの服の袖をマユが引っ張る。
「マユには、見えているのか?」
「……うん」
マユは小さく答えた。そして弱弱しく、シンの腕を引く。
「逃げよう……兄さん」
「あぁ……そうしよう……」
騎士たちの声を背に、兄妹は音を殺して闇の中を歩いていく。その闇は聖都の門まで続いていた。
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