『春巻き丼』

やましん(テンパー)

『春巻き丼』 〈上〉 (上・下 二部構成)


これは、すべて、フィクションです。


この世界とは、まったく、無関係です。


 

      🍚     🍚     🍚

 



 メインストリートから、一歩、脇にそれた、サブストリートに、新しい食堂が出来たんだそうな。


 それが、ちょっと異色なメニューが多いけれど、ものすごく美味しいし、お値段もリーゾナブルで、しかも不思議に、とても精が付くんだそうで、隠れた人気になっているとか。


「麻薬でも入ってるの?」


 とか、冗談を言っていたぼくですが、ま、一回食べてみたいのは人情と言うもの。


 そこで、自発的失職中でもありますし、ランチもやってはいるらしいが、昼間はちょと恥ずかしいから、夜間の部になって、お出かけいたしました。



 大きくはないけれど、こざっぱりとした感じ。


 目につくのは、その看板です。



  『地球最後のうまさ! 高級大衆料理店 銀河』



 「まあ、なんとも、すっごいお名前ですなあ。」


 ぼくは、がらがらと扉を開けました。


 「いらっしゃ~~~い。」


 生きのいい声が飛びます。


 好い感じですが、ぼくは、あまり賑やかなのは得意ではありません。


 なので、ゲーム店さんなどは最高に苦手。


 大バッハさんの音楽がながれる、完全禁煙の、しかも完全消音ゲームで、個室があるようなところがあれば、考えてもいいけれど。


 それじゃあ、高すぎになって、商売にならないだろうし、自室でやればよい事です。



 「いらっしゃませ。メニューです。」


 奥様らしきお方が、お水と、奇麗なメニューを、持って来てくださいました。


 「お酒ダメなので、食事だけでいいですか?」


 「もちろんです。食堂ですから。」


 「あ、ども。」


 で、メニューをみますと、たしかに、最初の方は、けっこう高級そうなものがあります。


 中華から洋食・和食まで並びます。


 『ふかひれなんとか』とか


 『名古屋なんとか鳥のなんとか、かんとか』とか。


 そこらあたりは、自分には無理なので、後半の『バラエティー・メニュー』を見ます。


 「え? 『ソプラノ丼』、『アルト丼』?、え?『プテラノ丼』? あらら『マンモス丼』? いやあ『ナウマン定食』? はあ・・・・なんだろかあ・・・・『春巻き丼』? なんだか、まともなような、そうでもないような。あのお・・・・・」


 「はい。何がよろしいですか?」


 「『プテラノ丼』ってなんですか?」


 「それは、あの、太平洋上に新しく現れた島がありますでしょう?」


 「ああ、鹿児島県に編入されたとか・・・異次元からあらわれたユウレイ島とか・・・。」


 「そうです。その島の特産の鳥です。本土で食べられるのは、うちだけなんですよ。」


 「あああ・・・・ちょと、ううん・・・あの、この、『春巻き丼』って?」


 「ああ、お名前通りの、『春巻き』を、たまごでとじたどんぶりです。おいしいですよ。お野菜もたっぷりです。」


 「はあ・・・じゃあ、今夜のところは、それ、で。お願いします。」


 「はい。並盛でいいですか?」


 「あ、はい。あの、お手洗いは?」


 「あ、そこ出て、突き当りです。」


 「ども。」



 ぼくは、身体の中に管が入っていて、おトイレがとても近いのでして、つねに

おトイレの所在を確認しないと落ち着きません。


 まあ、漏らしても、外からはわからないようにはしておりますが。


 そこで、まずは、安心する必要があります。


 ぼくは、お手洗いを目指しました。


 他のお客様は、3人います。


 麦酒ビールが並んでいますが、わりと静かな方々のようで、よかったです。


 お店の裏側は、まあ、大体、どこも静かなものです。


          🚽


 でも、ぼくは、ふと、おかしなものを見ました。


 「え?・・・・・」


 なんだか、やや扁平なまるいものが、慌てて奥の部屋に駆け込んだのです。

 

 「なんだろう?」


 奥には、多分、座敷があるのでしょうか?


 臆病なのに、好奇心だけは強いぼくです。


 そろそろと、お手洗いを通過し、その、『座敷』の前から、そっとのぞくと、少し、ふすまが開いていて・・・・


 見ました!


 ぶっとびました。


 異様な生物らしいものが。


 いたのです。


 ぼくは、見ちゃいけない物を見たと感じ、すぐ引き上げようとしたのですが。


 でも、『どすん』!! と、何かにぶつかりました。


 さきほど、調理場で見かけた、お腹の大きなおじさまです。


 その、お腹そのものでした。


 「みたな!」


 「あ・・・あの・・いや。とくに。。。」


 さきほどの、奥様らしき方が、お店側から入ってきました。


 「見ましたか!」


 「いや、だから・・・おトイレに・・・行くところでございまして。」


 「・・・やれやれ、あれほど、注意するように言っておいたのになあ。仕方がない。まあ、中に入ってください。・・・さ。はいって。」


 ぼくは、強制的に、座敷に押し込まれたのです。




   ************   **********




 


 



 




 



 



 

 


 



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