第28話 公園にて4

第28話 公園にて4


 木漏れ日が注ぐ森の木陰、眠り姫を起こそうとしている王子がいる。姫に掛けられた魔法を解くには……


 そう、眠り姫を起こすには、王子のキスが鉄板中の鉄板。古今東西、掛け値無しの唯一の方法であることは明明白白であると、疑いようもない事実であって……


 と言い訳を並べている自分がいる。何でこういった状況に陥ってしまうのだろう。つぐみさんとは、見つめ合って、抱き合って、それから……と言う流れに成らず、いつも無防備な彼女を見守っている自分がいる。


 これって、兄が妹を見守っているシチュエーションに類似しているのでは? と思いたくなってくる。負けるな自分、じゃなくて、彼女を起こすんだっけ。自分も少しまずいかもしれない、水分を補給して、深呼吸。


 落ち着いてみると、周りの景色が見えてくる。森の切れ目の木陰、太陽は澄みきった青い空に高く、木々の間を微風が走っている。蝉の声は遠く、静けさか周りを支配している。


 って、あれ何かおかしい、そうだ蝉! あんなにいる蝉の声が聞こえない筈がない、これは意識が飛びかけているのか、眠くなっているに違いない。このままでは、つぐみさんとふたりで遭難してしまう。


『つぐみさん、起きてください!』


『ラルカ、すまない。つぐみさん起こすのと、僕の意識が飛ばないように、話しかけてくれないか』


『殿も、調子が悪いのかえ? ほれ主よ、起きんかい』


『つぐみさん、つぐみさん』

「『つぐみさん!』」


 思わず声も出てしまった、って絆で話すのが自然な感じに成っているし、声に出すと2重に聞こえるから……それなら、効果が倍かもしれない。


「『つぐみさん、すみませんか起きられますか。そろそろお昼に成るので、一旦戻りますよー』」


 効果は有ったようで、つぐみさんが反応している。


『えっ? もう、お昼……ごめんなさい、寝てしまったみたい』


 むっくりと俺に預けていた上半身を起こして、


『ここどこ?』


 と言って、周りを見ている。


「『君を探して、公園の北側まで来たけれど、道がなくなっているので、引き返している途中です』」


「『わかったから、声には出さなくて平気よ』」


『よかった、起きられますか?』


『ええ、ちょっと待ってて』


 心配した割には、すくっと立ち上がって、顔色も良い感じだ。


『取り敢えず、水分をとってください』


『ありがとう』


といって、受け取ったペットボトルを片手に、反対側を腰に付けて、風呂上がりの牛乳ポーズで飲んでいる。何故か、笑いが出てきてしまう。


『えっ、何かおかしい?』


『いえ、そのポーズが、風呂上がりの定番の様なので、つい』


 自分の腰にやった手を見て、慌てて背中にまわしている。そして、ペットボトルを持ちかえて、俺が立ち上がり易いように手を差し出してくれる。


『ありがとう』


 差し出された手を握って、すっくと立ち上がる。そのまま、手を離してしまった瞬間、何で離さずに引き寄せて、抱き締めなかったのだろうか、と頭の片隅で自問していた。


 物語や漫画だったら、ここで彼女がバランスを崩して俺の胸に倒れ込む、と言う流れが有ってもおかしくは無いのだが、現実はままならないものだ。

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