11日目

 昨日、"閃光のエリック"から華麗にジョブチェンジした"オカマのエリィ"を召喚した。エリックの身の上に何があったのかね……。もしかして、ジュン君たちと一緒に魔王倒して「自分の生きる道」を見つけた、とか、そんな感じかな……。

 はっ! まさか、魔王戦で追った傷が元でオカマに……!? うん、真相は闇の中だな。


 それはそうと、最近結構調子いい感じだな。俺もガチャのコツっぽいのが身についてきたか?


「今日はマトモな人が出てきてほしいですわ!」

 昨日早々に逃げ出したマリアがそんなことを言う。エリィはオカマだったけど、戦力としては充分以上でしたよ?


 俺はいつも通りにコインをセットし、ガチャを回す。



 ガチャ



 魔法陣から光が溢れ──


 ドドォォォォォォン!!


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あ、あぶねぇ!!」

 恐ろしく巨大な重量物の着地により、俺とマリアは吹き飛ばされた。

 広い庭を埋め尽くすほどの巨大な人型……、魔法陣の光を突き破るように、巨大ロボットが出現していた。重量のせいか、芝生に両足がめり込んでいる。


 俺はその姿を見上げる……。黒と赤に塗り分けられたボディ。背中には翼のような物が展開されており、手には巨大なハンマーを持っている。何より特徴的なのは胸部を飾るライオンの頭……。


「ゴルディオンッ!!!」

 俺はジャンピング送還ボタンダイブでボタンをぶったたく! 巨大ロボットは光と共に消えていった。

 久しぶりにヤバイ奴が出てきた。これ確かに勇者だ、勇者なロボだわ。


「い、今のは、なんですの……!?」

「え、あ、うん、一応勇者です」

 マリアは「いろいろな異世界があるのですね……」と言いつつ、首をかしげている。



 ここ2日ばかりクーリングオフしてなかったから油断してたわ。ちゃんと送還ボタンには常に手を置いておかねば……。


 俺は反省し、心新たにガチャ装置に向き合う。クーリングオフにより排出されたコインを手にとり、再び投入。しっかりと左手を送還ボタンに置いた状態で、右手でハンドルを回していく。



 ガチャ



 魔法陣が光を放つ。俺はいつでも送還ボタンを押せるように、気を張って身構える。


「ふぅはっはっはっはっはっ!!」

 光の中からは高笑いする黒衣のオッサンが出現した。顔色青いし角生えてるし、まるで魔王……? これって勇者ガチャじゃなかったか?


「勇者タケモトよ! お前の力とはその程度──、ん?」

 マジか!! ジュン君の敵が出てきた!!


「おお、最近よく会うな!」

「へ? ど、どちらさまですか?」

 魔王に知り合いは居ない。召喚前も召喚後もだ。いや、厳密には地上にいた魔王とか、アレフ○ルドの大魔王とか、一方的には知ってるけど……。少なくとも魔王側から俺を知っているっていう状況には心当たりがない。


「ふはははは、なんだまた分からぬのか! 仕方ない奴よのぅ!」

 威厳たっぷりに上から目線で言う魔王は、突然表情を変え、気持ち悪い流し目をこちらに送ってくる。

「もぅ、忘れちゃうなんて、めっ よ!」

「ぶはっ!!」

 ウインクすんなキモイ! 小指立てるなキモイ! っていうか 閃光のオッサン→オカマ→魔王 って、どういう職業ツリーだよ! 何を目指したジョブチェンジなんだこれ!! 魔王ってオカマの上位職か何かなんか!?


「ふぅはははははは、驚いたか! まぁ、仕方あるまい。我も前回から"少し"変わったからのぅ!」

「欠片も面影がねぇよ!!」

 両者には「オッサンである」ということくらいしか共通点が見つからない。


 オカマから魔王ってどういうことだよ!

 ジュン君の仲間じゃなくて敵だったのかよ!

 むしろオカマ化したきっかけが一番気になるよ!!


「……」

 だめだ、カオスすぎて言葉が出ない。


「ああ、そうそう、外の異形どもを蹴散らすのであったな」

 そう言うと元オカマの魔王は空へと浮かび上がる。

「刮目せよ!! "魅惑の天使エリィ"改め、"漆黒の魔王ゴア・エリック"が異形らを殲滅してくれるわっ!!」

 自称、元"魅惑の天使"が名乗りを挙げ、異形で溢れる外へと飛び去って行った。



 昨日に続き、「ふはははははははは!」という高笑いと共に、爆発音やら炸裂音が一日響き続けていた。

 しかし魔王というには戦果が微妙だ。なんというか……、オカマの時の方が強かったぞ?


【世界の異形率90.0%】

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