7日目

「ああ、憂鬱」

 俺はスタミナコインを握りしめ、ガチャ装置の前に立ち尽くす。ここまで毎日2回ガチャってるからなぁ。今日も1回目にはヤバイのが出てくるんだろうなぁ……。まぁ、ボタン一つで一発送還できるからいいんだけどね。


「サクサク1回目消化しとこ」

 俺はコインをガチャ装置に投入し、ハンドルぐるぐるまわした。



 ガチャ



 魔法陣が光で埋まり、俺は送還ボタンに手を置く。もう押してもいいかな。どうせ1回目はクーリングオフなんだろうし。


「一人で旅立ちなど、なぜですかっ!! ──え、あれ?」

 光が晴れ、フード付き外套を羽織った少女がそこに立っていた。いかにも"魔法使い"と言った風情だ。ピンクのショートヘアを振りながら、周囲の様子が一変したことに戸惑っているようだ。

 珍しい。1回目から"オリジナル"な人が出た。マリアは首輪を手にしつつも、彼女を値踏みするように様子を伺っている。王女様がしていい表情じゃねぇな。


「あー、その、すみませ──」

「ここはどこなんですか!? ジュン様が大変なのです! 早くお止めしないと!!」

 声をかけたところ、すごい剣幕で詰め寄られた。

 支離滅裂ながら、会話の節々から拾い上げた情報を整理すると、どうやら"ジュン様"とやらが棒と少しのお金だけを与えられ、一人旅立ちを強要されたとか。なんかどっかで聞いた話だな……。

 早く追いかけないといけないのに、行先が分からないから大臣を問い詰めていたところだったとかなんとか。とにかくこっちの話を聞いてくれないので、仕方なくお帰りいただいた。


「"オリジナル"でもダメな時あるのね……」

「おりじなる……ですか?」

 俺は「気にしないで殿下」と言いつつ手を振り、俺はガチャ装置から排出されたコインを拾い上げる。背中をポカポカ叩かれているけど無視だ、無視。


 結局2回ガチャらないといけないのね……。俺は諦めて2回目をガチャる。



 ガチャ



 そして光の中から現れたのは、見覚えのある姿。


「ここを潜れば新大陸ですぞ……? ジュン殿?」

 誰かに向けて話しかけつつ、虚空に向けて指をさすランスロットが現れた。うわぁ、自称"光の刃"または"光の剣士"のランスロットさんじゃないっすか。既にマリアは「興味ないね」といった様子だ。

 それにしてもまた"ジュン"ですか。ジュン君人気やね……。


「き、貴様は! また吾輩を呼び出したのか! 我らの旅は今まさに新大陸へ向かうという大事なこの時に!!」

 ラインスロットは俺を見るなり説教を開始した。

 世界を救う旅を邪魔するとは何事かだの、ジュン殿は数々の苦行をご自身の手で乗り越えられただの、ジュン殿こそ世界を救う勇者だの、ジュン殿をお守りするのが自分の役目だの……、あれ、ほとんど"ジュン殿"の惚気話だぞ?


 ランスロットがジュン殿好きすぎてキモイのでお帰りいただいた。

 そしてコインは戻ってこない。そうか2回目だしね……。


「あかーん」

 今日は異形と戦えなかった。


【世界の異形率97.0%】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る