美しいひと

病院帰りの乗り合いバスの中で

とても美しいひとを見た


その女性ひと

ブランド物の洋服を着ていたわけでも

高そうなバックを持っていたわけでもなく

お歳は70代くらいだろうか


お化粧はされてない

顔にも手にも年輪のしわ

オシャレで若々しいタイプではなくて

ごく普通の佇まい


座席で外を眺められていた

買い物帰りなのかな

手縫いらしき手提げ袋から

新聞紙に包まれた野菜が見える


夕焼けが窓に映って横顔を染めていた

少し眩しそうに目を細めて

穏やかに微笑んだそのひとに

わたしは見蕩れてしまった


わたしは彼女のことを何も知らない

どんな人生を歩まれてきたのかも

どんな喜びと悲しみを味わってきたのかも

本当に普通の一人の女のひと


なのにどうしてだろう

どんなお化粧よりも、とても美しいと思った

しわの中に埋もれた瞳の中に

きらめく無邪気さを見たからだろうか


不思議な気がした

そして胸の中がほんのり明るくなった

ああ、こんな風に

歳を重ねていくのもいいな


特別でなくてもいい

ただ、何でもない時に穏やかに笑顔になれる

そんな風に生きていけたなら

それは幸せなことだと思うのだ


夕方の乗り合いバスの車内で

そのひとは、とても美しかった

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