あの夏の日々

わたしは山の秋が好きです

そして山の夏はちょっぴり苦手でした


だのに、今になると

山のあの夏の日を

胸の締め付けられるような懐かしさと共に

想わずにはいられないのです


ジリジリとした太陽に焼かれ

虫刺されに泣いて

濃い緑に茂る木々や草花の鮮やかさ

汗で濡れたТシャツさえも気にならず


暮れてきた空を見ながら

カナカナカナと、ひぐらしが鳴く声に

急に、もの寂しくなってきて

駆け足になる帰り道


もう、あの家には

祖母はいません

母もいません

四人家族も随分と寂しくなりました


山に夏は来ても

あの夏の日々には

もう二度と逢えません

カナカナカナ……聴こえるのは耳鳴りばかり


歳月のどれだけ貴重なことかを

知るためには沢山の時間を必要としました

失ってみないとわからないものは

こんなにあるのですね


わたしは山の秋が好きです

山の夏はやっぱり苦手ですが


前よりずっと恋しいのです

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