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新居の引っ越しが終わり、ある程度の荷物を片付けることができた。生活スペースも十分にあり、二人でこれから生活するには十分なほど。



「じゃあ、今から会社に行ってくる」

「うん!行ってらっしゃい」



剛ちゃんを見送り、私は玄関を閉めた。玄関には結婚式で撮った写真が飾られている。ベルを鳴らす階段で撮った前撮り。新婚夫婦というべき幸せの象徴。


そして私はデスクに戻り、自分の仕事スペースを整理整頓する。


カーテンを開ける。窓は網戸にしてあり、そよ風が入ってきて気持ちがいい。ここで私は生活をするのかと思うと、少しだけ緊張する。


さて、もう少しだけ頑張ろうかな。


仕事がきっちりできるようにならないと、仕事に取り掛かれない。まだ「○○の事情」の連載や、ライターの記事に取り掛かれていない。


パソコンのコードを接続し、電源を入れる。



「おお、起動した」



少しだけ待ち、デスクトップが開ききったところでインターネット接続をした。ライターの記事を受注・発注するにも接続されていなければ仕事が成り立たないのだ。



「よし、頑張ろう」


ネットがつながったことで勢いづき、最後に書類などを整理した。







そして、ようやくデスクの片づけが終わる。私はようやく落ち着いて文面を打ち込むことができるのだ。


記事を作成するために、デスクトップに白紙の用紙を広げる。


「ここまで、私頑張ったなあ」



“無題”と書かれたファイルを見つめ、私はぼやく。





自分が引きこもりとなった、恋愛をした、先輩や同期と対峙した、新しい職場で支えられた、そして素敵な人と出会った。







【     こんな幸せな時間を過ごしていいのだろうか。  |     】







私は疑問だった。


この“私が”こんな時間を過ごしていいのだろうか。


白紙に文面を乱暴に打ち込んだ。









【     思い通り   |     】








こうなることは何となく感じていた。自分が会社を離れてしまうことは








【      想定の範囲内    |     】








と、思っていた。






 さて



 お気づきだろうか






【     この”物語”の謎を   |     】








なんて、現実に語る語り部なんてどこにもない。

でも、私は坂崎さんと同じように嘘をついているかもしれない。

少しだけ、笑った。

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