第2話「美容院」

行きつけの美容院。

いつもと同じスタイリストさん。

他愛ない会話。


「今回は髪型、どんな感じにしますか?」

…来たな、この質問が。

このために、僕はめちゃくちゃイメトレをしたんだ。

大丈夫。

きっと大丈夫だ。

「私に似合う、ショートヘアにしてくだしゃい!!」

か、噛んだ。

大丈夫…なのか?

「はい、わかりました!こんな感じはどうでしょうか?」

大丈夫、だった。

「じゃ、じゃあ、こんな感じで」

「かしこまりました!」


―――――――――――。


「出来ましたよ、こんな感じでいかがですか?」

…ずいぶん印象が変わるな。

でも、なんかいい感じ。

「ありがとうございます、大丈夫です」

「はい!」


髪がない(正確にはあるけど)、感覚は、とっても不思議なものだった。

お会計を済ませた帰り道、なんだかすがすがしい気分で、街を歩いた。

皆に僕を見て欲しい、それくらい気持ちのいい感じ。

サイコーだね。


「あれ…優美さん?」


うっ…この声は。

僕が髪を切って、一番会いたくなかった、僕の想い人の声。

振り返ると案の定…。

「あ、やっぱり優美さんだった」

にこやかな表情の彼は、石田悠馬くん。

ちなみに、僕はすでにフラれている。

悲しいかな。

「優美さん、髪切ったんだ」

「う、うん…」

「似合ってるよ」

そして、ニッと笑う。

胸のあたりに、キュン、という波動が来る。

僕は、その波動から逃れるように、

「じゃあ、また明日学校で!」

と、駆け出した。

彼はまだ何か言いたげだったが、そんなことは知らない。

帰ろう、我が家に。

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