『幸せの道』

やましん(テンパー)

『幸せの道』

 《これは、フィクションです。登場人物も、団体も、この世の実在の人物や団体等とは、まったく関係ありません。》 



 今夜もやましんは、深夜の繁華街を当てもなく歩いておりました。


 人通りはまだあるのですが、だいたい、よっぱらいさんばかりです。


 「やましんごとき、生きている意味があるのか? 職場では、死ねと言われたようなもんだし。それが正しいのだろうし・・・役立たずさんだし・・・奥さんにも見放されてるわけだし・・・意味ないよなあ・・・・・」


 わけのわからないことを、ぶつぶつ言いながら歩くやましんですが、とくに気に留める方もなく。


 ましてや、スカウトされるわけもなく。


 ふと気が付くと、狭い路地の入口に、ちいさなプレートが張ってありました。


  『幸せの道』


 「あれ、こんなのあったっけ? どこかの宗教団体かな?」


 どうせ、生きててもしょうがないからと、やましんは、その路地裏に入り込みました。


 両側が、高いビルの塀という感じで、電灯もぽつぽつとしかなく、薄ぐら、というよりは、真っ暗というところです。


 「まあ、どうせ、川に出るんだろう」


 そう思いながら、歩いておりました。


 すると、後ろから、突然、ぎゅわっと、気配を感じました。


 人がいます。


 手には、なにやら、物騒なものが握られているらしいのが、小さな暗い街灯に 

少し、浮かびあがりました。


 「死んでもらいます!」


 「ぎえ!」


 さっきまで、生きててどうする、とか、言っていたやましんなのに、こうなると、逃げる!


 しかし、若い頃のようには、もう走れないのです。


 必死にひたすら、なんとか、あえぐように、前に逃げます。


 助けを求める暇もなく、逃げました。


 はあはあ、言いながら、50メートルも走ったか、と思うと、その危ない気配は、すと消えてしまいました。


 「なんだよなあ。またく。妄想かしら。やれやれ」


 立ち止まって、一息入れましたが、なんだか、こんどは、あたりには深い霧が立ち込めて来ます。


 「おあ~~~。川からかなあ・・・いま、戻るのはこわいなあ。」


 やましんは、もっていた小さな小さなミニLED電灯を灯しました。


 見た目は結構明るいけど、照らす範囲はちょっとだけです。



 冷たいものが、身体を通過しました。


 「おうらめしやあ~~~~~~~。」


 「おぎょわ! 出た!」


 「出ました。恨みはらさでおくものか・・・・」


 やや、中年くらいの女性の幽霊さんです。


 「はあ・・・・もう、さっきはびっくりしたけど、もう、やめてくださいよ。いまどき、幽霊さんは、流行らない。ぼくは悩んでるんです、よそでやってください。」


 「おうらめしや~~~」


 風に流されたように、幽霊さんは霧とともに、来た方向に飛ばされてゆきました。


 「まったく、もう。」


 やましんは、速足で歩き始めました。


 汗びっしょりです。



     ******    ******



 「あの、もし。」


  物陰から、こんどは、若い女性が出て来ました。


  凍り付くような美女さんです。


  なんだか、かなりむかしの風情です。


 「もし、お望みならば、あの世にいっしょに、まいりましょう。」


 「え?」


 「あなたには、その香りがあります。あの世の安息を求めている香りです。」


 「あの、あなた、生きてますか?」

  

 「もちろんです。でも、この路地に迷い込んで250年。まだ抜けられませぬ。むかし通りがかった幽霊さんによれば、心中すれば抜けられるとのこと。でも、相手が現れず・・・・あなたさまが、ようやく通りがかりました。ぜひ、お供いたします。この先の深い淵に沈めば、『幸せの道』に入れるとか。さあ。まいりましょう。」


 いやあ、こおれは、断わる筋合いがない・・・


 「まあ、すこし、歩きましょうか。」


 「あい・・・・・」


 ふたりとも、物を言わず、ただ、歩いたのです。


 なんとも云えない、不可思議な感覚が漂います。


 いよいよ、終末が来たか・・・・・


 なんとなあく、そういう、雰囲気になってきています。



 ところが、またまた後ろから、何かが来ます。


 自転車です!


 「こらあ~~~~そこのふたり~~。とまれえ! 逮捕するうう~~~~」


 「ひえ! 逮捕って・・・・なんだ?」


 ぼくらは、走りました。


 「あたくし、嘘を言いました。これまで、心中を15回実行し、すべて、相手だけが亡くなりました。なぜだか、わからないのですが。」


 「ひえ。そりゃあ、逃げる!」

 

 ぼくは、スピードをあげました。


 「あらあ。おまち、くださいませぇ・・・・」


 なんで、こんなに走れるのか?


 不思議なくらい、早く走れたのです。


 とにかく、後ろで、警官さんが、彼女を取り押さえたらしきを感じながら、ぼくは、ずんずんと、先に向かって走りました。


 そうして、ついに!


 出たのです。


 向こう側に。


 

 ごうごうと、流れ落ちる巨大な大瀑布です。


 

「まさか、ここに、こんなもん、あるはずがないだろう。」


 すると、上空から、電光掲示板が降りてきました。


『おつかれさまです。あなたの消費カロリーは、350キロカロリーです。なお、この瀧から飛び込んで頂いて、けっこうですし、お帰り頂いてもかまいません。帰路には、障害などは、ございません。ただし、選択は、一回だけです。また、ここのベンチで考えていただいて構いません。制限時間はございません。なお、ここでの1時間は、通常空間での12時間となります。どうか、ごゆるりと、おすごしください。私どもは、宇宙空間の悩める方々を救う事を使命としている、『銀河系〈幸せの道〉事業協会』です。今回は、ご利用いただきまして、ありがとうございます。なお、その販売機の飲み物は、すべて無料でございます。この空間は、あなたがいなくなれば、自動的に消滅します。では、お幸せな人生をお送りください。さようならあ~~~~!』



「あ・・・・え?・・・・・・・」





 ************   ************



                          おしまい












 

 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『幸せの道』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る