ゲスです。
「それじゃ、支度してくるからね」
「ああ」
そう言って、遥香は洗面所のドアを開けて入っていく。
対するおれはソファに座り、食後のコーヒーをずずっと優雅にすすっていた。
大学進学と共に遥香と同棲を始めて、早5ヶ月。
この生活にも慣れてきた。
築10年の広さ1LDKのこのマンションがおれと遥香の愛の巣……ってそんな甘々な生活を送っているわけではない。それなりに節度を持って生活を送っているつもりだ。
「おまたせ。って何ぼーっとしてんの?」
すると、いつの間にか支度を終えた遥香が隣に来ていた。
「ああ、遥香はいつも綺麗だなって思ってたんだ」
「ちょ……!?何よ、いきなり……!」
おれの言葉に遥香はぶわぁっと顔を赤らめてしまう。
うん、かわいい。それにこういう反応が見れるのは、やはり彼氏の特権か。それにおれもいつしか、こんなこっぱずかしいセリフも言えるようになっていた。
「へ、変なこと言ってないで早く行くわよ!」
照れを隠すように遥香はいそいそと準備を進めていくが、焦りすぎて関係ないものまでカバンに詰めている。近くにあったビンに入ったコーヒーやリモコンまで入れている。
スティックの砂糖持っていけば、お金使わずにコーヒー飲めるな。
なんて呑気なことを思いながら、おれも準備をするのだった。
大学までは徒歩で15分。
今は朝の8時過ぎなので、かなり余裕である。
2人並んで道を歩く。しかし、手は繋がない。これが2人で決めたルールだった。
完全なプライベートの時だけ、カップルらしいことをするようにしているのだ。まぁ個人的には手くらい繋いでもいいじゃん。とは思うのだが、仕方ない。帰ってから、やってやるか……?
適当な雑談を挟みつつ、大学の校門へとやってくると、目の前に顔見知りが1人いた。
「久しぶりだな」
後ろから声をかけると、こちらを振り向く。
「あ、京君。久しぶりだね。ほほぉ、相変わらず、ラブラブなようで」
言いながら、おれと遥香をニヤニヤしながら交互に見てくる。
「ふふふ。これぞ、リア充ってやつだな」
無駄に威張ってみる。
「少し前までリア充を毛嫌いしていたのに、この変わりようは一体……」
呆れたようにため息を吐く柳。
大学に入ってから分かったのだったが、なんと柳も同じ大学を受験していたのだ。
「そっちは相変わらず、取材か?」
3人並んで歩きながら、そう尋ねる。
「まぁね。夏休みだから、ゴシップ的なことあるかなって思ってたのに、全然なかったから、試合に出場してる選手の取材ばっかりだったよ」
「別にそれでもいいじゃない?」
「えー、どうせなら、もっとドロドロした昼ドラ並みのゴシップがほしいんだけどなぁ」
ゲスだなぁ、こいつ。
「ゲスだわ……」
ボソッと遥香のそんな声が聞こえてきた。
あ、シンクロした。
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