灰色の景色〜Relying person〜

辻谷戒斗

彼女のいない世界

海だ……

波の音が聞こえる……

……なんでだ……

なんで大切なものを手に入れるのはとても難しいのに、失う時はこうもあっけないんだ……

君の笑顔が、仕草が、その存在自体が、僕の全てだったのに……

教えてくれ……なんで……なんでなんでなんでなんで!!

君が死ななければならなかったのか!!

……君がいないこの世界に、僕が生きる意味なんてない……

待っていてくれ……今、そっちに逝くから……

……綺麗だな……夜の海は、朝や夕方とは違う良さがある……

でも、潜ったら真っ暗なんだろうな……今の僕の心のように……

だんだんと、目線が水面に近づいている……

もうすぐ僕の視界は、暗闇に包まれることになる……

恐怖なんてない。

ただ、息ができなくなるまで波に逆らって進み続けるだけでいい……

それだけで、僕は死ぬ……君と同じところへ逝ける……

……もう、何も、見えない……

息も、じきにできなくなるだろう……

……思い返せば、君と出会ってからは、いろいろなことがあったな……

初めて君と出会ったのは、小学1年生の時だったな……

入学式の時隣の席で、緊張していた僕に話しかけてくれたな……

 

『私、天野渚っていうの!よろしくね!進君!』


あの時見せた君の笑顔は、可愛かったな……

思えば、あの時から君が好きだったのかもしれないな……

初めて君のことを好きだと感じたのは、中一になってからだったな……

君から告白されたのは、その一年後の中二の時だったな……


『え、えっと……す、進君!あの……す、好きです!付き合ってください!』


この告白を受けて、僕は君と付き合ったんだ……

それから、君と中二の間は色んな所に行ったな……

あの時は、楽しかったな……

中でも一番記憶に残っているのは、付き合ってから初めてのデートで、初めてキスをしたことだ……


『……キス……しちゃったね……ちょっと、恥ずかしいな……えへへ……』


あの時の、君の顔は、とても可愛かった……

この笑顔の為なら、何だってできる気がしたんだ……

この時、君のその笑顔を守りたいと思ったのに……

別々の高校に行ってから、僕が虐められ始めた時も、相談に乗ってくれて、いつも傍で笑っていてくれた……

笑顔を守りたいと思っていたのに、守られていたのは僕の方だった……

高校一年のある時、二人でご飯を食べに行った時に、『僕って生きてる意味あるのかな……』って言ったら、君はこう言ったな……


『そんなこと言わないでよ!!私には進君が必要なの!!だから、そんなこと、言わないで……お願いだから……』


この言葉を、聞いたとき、僕は、生きていていいんだって、思えたんだ……

僕の人生は、君がいることで、意味を成すんだって……

だから、君がいなくなった今……もう、僕の人生に……意味は、ない……

…………あぁ……息が、苦しく、なってきた……

……意識が、遠のいて、いく……

もうすぐ……終わりだ……

いい、人生だったとは……言えないけど……君と……過ごしていた、時間は……とても楽しかった……

……………………え……?

なんで……僕は……藻掻き、足掻いて……水面を目指してるんだ……?

僕は……死にたかったはずなのに……なんで……必死に泳いでるんだ……?

なんで……なんでなんでなんでなんで


「プハァッ!!ゲボッ!ゴホッ!ゲホッ!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


…………なんで…………なんで僕は死なずに夜空を見上げているんだ……?

……なんでなんだよ……死にたかったはずなのに、意味のないはずなのに、なんで俺は……死ねないんだよ……!

クソッ……クソッ!


「生きて、進君。私はまだ、進君にこっちへ来てほしくないんだ。大丈夫、私はずっと進君を見てるから」


え……?


「渚!?」


……いるわけない、か……

でも、声は確かに聞こえたんだ。

もしかしたら渚が僕を生かしたのかもしれない。

なら、僕が成すべきことは一つだけだ。


「君が来ていいと言うまで生き続けるよ、渚」


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灰色の景色〜Relying person〜 辻谷戒斗 @t_kaito

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