─ 幕間 ─
……………
……………
……………
「───ねえ師匠、くっそ暇してるんならわたしに魔法の四系統教えて欲しいんですけど!」
そんなある日の日常。わたしは不意打ちの様に机をバンと叩きます。その迫力に一瞬だけ空のカップが宙を舞いました。
「誰が暇人魔女だ。外に出ろ八つ裂きにしてやるぞ」
「いってて!!!耳!耳!取れちゃうから!!」
その熱のまま、意を通そうとしたわたしの耳を掴まれ、師匠に拗じられます。
いててて!!いや本当取れちゃうから!!やめ…やめてぇ!!
「フン、お前も魔法使えるようになったから魔法の常識的な知識ぐらいは頭に入れといてやるか」
そう言うと師匠はドカッと椅子に座り直しました。
わたしも安堵して耳たぶ撫でながら椅子に座ります。
「いいかクズサ、直球で言うがお前は恐らく『シェイク』だ。私は魔法学校教師では無いから確証は無いがな」
『シェイク』? へぇー聞き覚えは無いですが自分にも何かそう言う区分けがされると、
本当に魔法使いなんだって言う実感が湧きますね。
「順で説明してやろう。先ずは『アタック』から。
大半の魔法使いは『アタック』系と言って良い程に数は多い。そしてその頂点に座するのがこの私、クロウデット様だ」
「ワー師匠スゴーイ」
師匠の見栄は取り敢えず褒めときましょう。
「身体強化や使い勝手の良い属性L1なんかで『アタック』系以外でも魔法使うので『アタック』の使用頻度は多い。
それぐらい汎用性高い。つまりそれ程に優秀と言う訳だな」
「そう言えば、師匠は洞窟内で攻撃魔法を詠唱カットしてましたよね」
師匠の庭での事を思い出します。
わたしが退路を断たれて愈として諦めた時に、師匠がその窮地を魔法にて救ってくれました。
「詠唱の当座な。簡単に言えばその倍の魔力をお前に捧げるので瞬時に使わせろよ的なのと想像しろ。
L3からは普通に詠唱してたら一分は掛かるからな。欠伸が出るだろ? 実戦でそれじゃ使えん」
成程。つまり大体の人は高威力魔法となると詠唱カットで行使してくると言う訳ですか。
その分ガス欠も早そうです。その辺りは魔法使いの弱点とでも言えそうですね。
「L4や5辺りになるとちょっとした災害クラスだ。当たり前だがアタック系統で依り魔法才がある者だけが出来る。
そして私は当然として使える。五属性のL5全部だ」
凄いだろ?と言う師匠にスゴーイと機械的に返します。
かく言うわたしはL5どころか各L1で精一杯なんですが。L1作れそうなの今の所、水と風と土…ぐらいかな…
「次は『ガード』系統。傷を治す。終わり。次『フェイズ』な」
「ちょい!ちょいちょい! 雑! 師匠説明が一気に雑になりましたよ!」
「チッ、自分の系統じゃないものを説明するのは腕弛いな」
この露骨な萎え様だと本気で此で説明が終わり兼ねません。
───しょうがない、ここは一つ…
「戸棚の奥底に密に隠していましたが師匠、わたし師匠の大好きな『酩酊ちゃん』を一本だけ確保しています」
「…何ッ!?」
『酩酊ちゃん』…只の師匠が好きなお酒の銘柄です。
造酒が難しく中々手に入らないそうなんですが実は一本だけ隠し持ってます。
因みに未成年は飲酒厳禁ですよ〜
「貴重な『酩酊ちゃん』を差し上げますからちゃんと教授して下さいよ?」
「何かお前に上手く使われてる気がして癪に障るが、ぐ…酩酊ちゃんの為だ」
主としての威厳とお酒の板挟みに苦渋に顔を滲ませながら、漸く師匠は観念した様です。
持ってて良かった酩酊ちゃん。
「『ガード』系統は実は非常に少ない。レアものだ。有名所だと『絶壁の魔女』カナードと今の三塔長やってるクレアって小娘か…」
『ガード』の最高峰『絶壁の魔女』の名前が出てきました。
『ガード』系統どころかあの御方は国一とまで言われてます。
「やる事は至極単純。己を護る堅牢な盾を作ったり、傷を癒す力を持つ。
流石に死人を生き返らせるなんてのは無理だがカナードだとこりゃ死ぬわみたいな奴でも危篤を救ったのを見た事があるな」
…そう言えば師匠はカナード様と共に九年前の火水国間戦争で奮戦してたんですね。
共に肩を並べて戦っていたんだろうなぁ…絵になる。矛と盾で無敵感が凄い。
「アタック系統はガード系統と相性悪くてな、殆ど使えん。逆も然りだが。私が盾でも出してお前の魔法から護った事あるか?」
わたしは首を振ります。師匠が盾を出したり傷を治してくれるのを一切目撃してないと断言出来ます。
てか出来るならやって欲しいぐらいですよ、わたしどんだけ師匠のせいで心身傷付いているか。
「相互相性悪いのは分かりました。でも『ガード』特化さんはどうやってそれで戦うんですか?」
「身体強化やL2ぐらいまでならガード系統でも出せるからな。それで戦えはする。
後は盾を護りでなく攻撃で使うとか、か」
た、盾で殴って来るんですか…!?
癒しのイメージから大分掛け離れた気がするんですが!!
「次『フェイズ』私は使えん。私と言うか『アタック』『ガード』系統が使えん」
「へえ!何か特別感ありますね!」
「まあ当たり系統だろう。魔法才に依るが『アタック』『ガード』もある程度は熟手出来るんだからな。
代表的な奴は………『人操の魔女』」
『人操の魔女』と言うとルージュ様! 知ってはいますが御姿見た事はありません。
「『フェイズ』は見えない三の手で色々悪さすると思っていい。勿論才器によってどれ程その手数があるのか分からんが。
いきなり物が浮く飛ぶ、自分の体が動けなくなる、魔法が使えない、そんなケースに遭遇したらまず『フェイズ』を疑え」
「魔法が使えない…?」
「『フェイズ』のインチキな所だ。これに捕まってしまうと魔法使いは無力だ。魔力が差し押さえられる」
ちょ…凄いな『フェイズ』最強じゃないですかそれ。
「所がそうでもない」
その旨を伝えると、意外にも、こう返ってきました。
「奴らは能力発動時に瞳が赤く発光して馬鹿目立ちする。それに発動までに少しばかり時間が要る。
要するに対一戦闘には向かないって事だ。徒党を組む事で初めて厄介だと感じる」
成る程。一応『フェイズ』にも弱点らしい弱点はあるんですね…
「後は身体拘束なんてしたら消耗が激しい、中には早々に自力脱出する奴もいる。
私なんか木っ端な雑魚『フェイズ』に嵌っても二秒で破いて見せるぞ」
むむむ…何か『フェイズ』難しそうですね
使えれば強力なんでしょうけど、上手く熟せる気がわたしは全くして来ない。
「───最後がお前の『シェイク』だ。なんて事は無い、『アタック』『ガード』『フェイズ』満遍無く使える」
「え? 凄くないですか?」
「凄くないんだなこれが」
??????
全部使えるんでしょ?実質は『フェイズ』と似たり寄ったりじゃないですか?
「これまで多くの『シェイク』系統を見てきたがぜーんぶ中途半端! 魔法使い一塔や二塔で長い期間燻ってる奴は大方『シェイク』ばかりだろう。
全部平均で使えるが故に一つを大きくは伸ばせず結果強くは成らない。典型的な器用貧乏タイプのハズレゴミ系統だ」
メッタメタに罵倒されてる気がするゥ!
わたしの系統これなんですよ、もっと優しさで包んで!
「シ…シェイクの有名人さんは…」
「居ないなぁ、魔女に『シェイク』なんて居ないのがその証明だろう?
一応三塔に『シェイク』系統が一人居るらしいが、一人だぞ一人」
目眩して来そう。十数人居る魔法使い三塔の中で只一人って…
「簡単に言えば他三系統40/40/40だ、これが才並の『シェイク』の場合
魔法才が高くある奴でも良くて70/70/70って所だろう。他系統の100相手にこんな半端で勝てる訳が無ーい」
「そ…そうですか…」
愉悦そうに語る師匠が嬉しそうで何よりですよ、過酷な道征く弟子を死体蹴りするのが楽しいんでしょうね…
「まあお前は魔法学校入ったら先ず30/30/30を目差せ。尤もそこで限界が来て止まるか分からんがな〜」
よぉく分かりました。まだわたしが『シェイク』と確定していませんが、私はこう見えて魔力キャパシティが広いんです。
前例無さそうな100/100/100を成して存在しない『シェイク』の魔女になってやろうじゃないですか…!
その時は師匠なんて100の『ガード』と100の『フェイズ』でボッコボコにしてやる!
「よーし!授業終わりッ!!! ほら隠してる泥酔ちゃん持ってこい。後何かツマミも作って来いよ」
まあ、貴重な泥酔ちゃんを使った分の見返りは得られたから良しとしましょうか。
私は重い腰を上げて、また奴隷みたいな小間使いに戻るのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます