第八話  『魔法』

 


 




 それは、まだわたしが故郷のディレイに居た頃の話です。


 当時の学校の先生は、わたしにこう言ってくれました。



『アズサちゃんはきっと幸運の持ち主ね、だから危ない目に遇う事はまず無いわ。

 うん、先生の言う事に間違いなし!』



………危ない目とは、具体的に何を指すのでしょう?


 師匠に無理矢理やらされた断崖絶壁からの海面ダイブが今の所、最も危なかったような気もします。


 まぁ、あれは傍に師匠が付いていましたし、

………、水面をあっぷあっぷしていたわたしを、指差しながら笑っていましたが


 生命の危機とまでは、言えないと思います。


 危ない目とは則ち、命を失いそうな事態に遭遇した時。


 ならばわたしは今まで、危ない目に遭ったとは思いません。


 先生の言う事を信じるなら、この先もずっと………



「ああ、うわあああ、熱い!! 背後にィィ溶けるような熱風がぁぁぁ!!」



 気が狂いそうな程、同じ道。


 走り辛いと感じる、地響き。


 気分を害する、変な呻き。


 通路ギリギリの大きさで転がってくる燃え盛る岩。


 それはよくある罠等で飛び出てくる大岩と違い、正確にわたしを狙って追尾して来ます。


 冷えていた身体は、過度の運動により今や内部は灼熱。


 外部も、背後から迫る火岩のせいでもう熱いのなんの。



「ひぃ………ひぃ………」



 もう何回十字路を曲がったか分かりません。


 目印どころじゃありません。


 取りあえずは直線を進むより、左右に曲がって逃げています。


 火岩はその巨体故に、曲がる時は速度を緩めなければいけないんだと気付きました。

 その隙になるべく差を広げて、次の十字路に差し掛かるまでに、ジワジワと追い付かれる、の繰り返しです。



「せ、先生の大嘘付きィィイイイイ!!!」



 周りから鈍感鈍感とよく言われているわたしですが、今現在、大変危険な目に遭っている事ぐらい分かりますよ。ええ!


 と言うかこの大岩何でわたしを執拗に追い掛けて来るんですか?


 わたし何かしましたか? クサイとか乙女に向かって何ですか!?


 嘗めてるんですか!?


 ブッ飛ばしますよ!




……………




……………




……………




 最も背中が熱くなる頃合、前方に十字路が見えて来ました。

 加速しながらそれを左折。


 そろそろ足首に疲労が溜まり、痛くなってきました。


 いっそ立ち止まりたい衝動に駆られますが、後ろの地響きがそれを許しません。



「い、いい加減にぃぃ………して下さいぃぃ~~~!!!」



『はッ…はッ…』と荒く不格好な息を伴って走ります。

 自慢の体力を遺憾無く消費し、このペースだけは何とか保てています。


 しかしそれも所詮は掬えば消える有限の泉。


 遅くない先には尽きて、ダウンする事が目に見えます。


 その時がわたしの命日ですかそうですか。


 ならば、そうならない為にも、こちらから早急に手を打たなければいけません。


 わたしはまだ、死にたくない!



「ど、っ………はぁ………ど、どうすれば………!!」



 十字路迷宮を助けてくれた尖った石コロなんて、握っていても邪魔なだけですし、逃げ始めた早々に投げ捨てました。


 生身でこれに対抗しようとも巨体相手に何をどうやれば戦えるんですか…

 と言うかそんな事をしようとしてる間に、きっとプチッと潰されちゃいますよ。


 現状、わたしがこの、はた迷惑な岩転がしを打破する方法は………


 でも追い掛けて来る以上、いずれは迎え撃つしかありませんが、………いやいやいや無理ッ、接近戦無理ッ!



 こうして突破口が見つからない以上、やはり逃げて逃げて、とにかく逃げまくるしかないんでしょうか?



 いや───、


 打破する方法なんて、見逃しようもない程、身近にある。


 有るんですよ。戦う為に必要な武器が。


 それも、離れながらの攻撃が。わたしには…



 だって、わたし自身がその『武器』なんですから。



「わ…、私は魔法使いッ! だから、魔法、ま、まま魔法ッ………!!」



 肝心の出来る出来ないは頭に入りません。


 とにかく魔法で、あれを倒すしかないんだと愚直な迄に思いました。


 走りながらも、少し屈んで、腿のベルトから抜き出したるは、透明な液体が包まれている一本の薬筒。


 それを額に添え瞼を閉じ、塚の間の集中を得ようと、注力します。


 途端、時の流れは、わたしの身体を含め、全てに対して適用され、緩み出しました。


 変わらずの速度で進行しているのは、わたしの脳内。


 恐ろしくスムーズに、思考の波が直近の波紋を立てた後に鎮みました。


 頭のてっぺんから指の先から瞳の奥から足の爪先から細胞の一つ一つまで、

 循環しているのがわたしの魔力、それに反応するエーテル、作り出されるのが───



「───わたしを助けて下さいッッ!!!」



 再び、加速を始める時───


 クワッと見開いた瞳。


 いつもとは違う手応えを感じ、それを刹那で名残惜しみながら、

 振り向き様、ろくに狙いも付けず、スナップを利かせて全力遠投しました。



「ハァ………ハァ………」



 立ち止まり、両手を膝で支えて薬筒の…いや、魔法の行く末を見守ります。



「っ……ぐ………はぁ………」



 上手く、息を吐く事すら、難しくなりました。


 おかしい、何かわたしの身体がおかしいです。


 まだ走り始めてそれ程経過していませんが、既に自慢の体力の泉は、底で辛うじて掬い上げれる程度。


 ドクンドクンと心臓の鼓動が爆音で鳴り、わたしの中で大量の血液を送っています。


 やけに、消耗が、激しい。どうしたんでしょうか私は…


 この、肝心な時に。



「くっ………………」



 目前には今、畏怖の対象、通路一杯の体積がある大きな大きな丸い火を纏う岩。


 徐々に、曲がりで落とした速度を取り戻し加速しています。


 肝心の投げた薬筒は、風の抵抗すら介せず、一直線にその火岩の下部辺りに接触しました。


 それでいつもは終わり。


 ただ無駄に中身をブチ撒けて、魔法は失敗に終わります。


 雀の涙ですが、身体を休める事で少し頭が冷えました。

 だから火岩に当たって薬筒が砕けたら、すぐに踵を返し、再び駆け出せるよう構えましたし、考えていました。



───しかし、目前で広がった光景は、従来のそれとは異なるものでした。



『ドン!』と破裂した音を伴い、突如膨れ上がるように出て来た直径5米程の水の球が、直後、火岩に衝突し、

 その威力を以って逆へと回転させ、反対側に転がしてしまいました。


 それを見てギョっとしたのは、当のわたしです。


 一体何処から出たのかこの不可思議な水の塊は今の衝撃で跳ね散って此まで迫り、足元を濡らした後、地面に馴染むように吸われます。



「おぉ………、え? え?」



 その流れまでを、口をだらしなく開けて唖然と見ていました。



「今の、ま、魔法………?」



 ウソ──………


 俄かに信じ辛く、しかしこの目が確かに、その光景を網膜に焼き付けました。


 それは、我武者羅な迄に、繰り出しました。


 どんな魔法が発動したのかすら、わたしには分かりません。


 イメージと言うか咄嗟に思い浮かべたのは、今日会ったテレサレッサが見せたあの風の魔法。


 そもそも師匠からは魔法の基礎的な知識だけを叩き込まれたので、具体的な魔法術は習ってもいません。

 習おうにも肝心の魔法そのものが使えなかったからですね。


 さっきのはその威力や形容、正にテレサレッサが使った魔法に酷似しています。


───ふと、こんな事を考えている時ではないと気付き、内世界から我に帰って視線を地面から上げます。


 呆けていたのは、きっと一秒も満たなかったと思います。

 肝心の火岩はわたしの魔法が当たってから微動だにしません。


 今だ、今のうちに距離を稼がなくては!


 ガクガクに震える足に鞭を撃ち、脱兎の様に岩とは反対側に駆け出しました。


 今まで直線では速度で下回り、距離を縮められていました。

 なので多々無理をしてでも、ペースを上げて走らなければ、今度は絶対に追い付かれます。



「くぅぅぅうう!! 魔法成功の感傷すら浸れませんッ!!」



 既に疲労の波は、身体全体を貪るように蝕んでいます。

 それでも、死にたくなければ走る他ありません。


 ペースを上げたい気持ちは焦がれる程にありますが、実際は落ちる一方です。


 やれる元気なら疾っくにしています。


 しかしこれ以上の加速はどうあっても望めません。



「はぁッ!………はぁッ!…………はぁ、はぁッ!……」



 そう言えば、背後から聞こえていた、あの身震いする程の地響きがありません。


 背中が焦げそうな程の熱も、感じられません。


 今まで感じていた強烈なプレッシャーがありません。


 そこに不思議を思って幾何。


 迷い抜いた末、振り向いて見てみれば───


 火岩は彼方、後方に。


 と言うよりは先程の位置から不動。動いていません。



「………はぁッ………はぁッ………はぁッ………はぁッ、………やっ……た……??」



 それを確認し、わたしも走るのを止めました。


 用心に用心を重ね、八十米突程の距離を保ってから、訝し気に追って来なくなった火岩を観察します。


………それは、火岩の如実なる変化。


 岩肌から発していた、あのメラメラ燃ゆる赤い炎が消えています。


 ん…、さっきのわたしの魔法が消火したんでしょうか? これがトドメを指した証?

 


「は、早い所、此を出ましょう………

 もうこんな思い、願い下げですよぉ………」



 この厄介な大岩の無力化を確信しました。


 充分に回復していませんが、いつまでも此に留まる訳にはいきません。


 ヨロヨロと覚束ない足取りで出口を求め、彷徨います。


 もはや『秘書』なんて不確かな物、要りません。

 何より、それを求めた理由は無くなりましたしね。


 まあ此迄来たら深部に何があるのか、後髪を引かれる思いが残りますが…



「……………」



 今にして思えば、成功した要因はこれでしょうか?

 わたしは、人差し指に嵌めてある指輪を見てみます。



「えぇ…と、マガ…、マガーニャラーでしたっけ?」



 テレサレッサとメドゥーサからプレゼントされた魔装具。


 ニ塔2位の商人と呼ばれる方のお墨付き。


 今は、その指輪が妖しく銀光しているように感じます。



「おおっ、とっとっと………、ふぅ―――、キッッツ………何で、だろう?………

 こんなに身体に怠さを覚えた事…昨今ありません。この洞窟に居るせいなのでしょうか………?」



 足が縺れ、倒れそうになるのを何とかして堪えます。


 それから壁に寄り掛かり、休息を取りました。


 まだ大岩は視認出来る位置にあります。全然進めてません。


 本当に、自分がこんなにも非力な身の内だとは、思ってもみませんでした。


 外でやったアスレチックを加味しても、体力の消耗が著しく、休んでいる今でさえ、力が抜け落ちていく感覚に捕われます。



 洞窟の中の、何とも言えない雰囲気のせいでしょうか?


 この規則的に並んでいるランプのせいでしょうか?


 あの火岩の命を喰らうプレッシャーで、いつもより多くの体力を消費したんでしょうか?


 それとも、今も鼻から息をすれば感じられる、仄かな甘い香りのせい?



「………あ―――………、そう言えば、どう行けば此から出られるんでしょう?

 もう、今いる場所が何処かすら分かりません。目印なんて付けてる暇、なかったですからね………」



 最後に目印を付けた十字路なんて遥か彼方でしょう。


 これからわたしは宛も無く、この迷路を気が遠くなる程の時間をかけて、攻略していかなければなりません。


 もしかしたら途中で師匠が助けに来てくれるでしょうか?


 何となくですが、これは師匠が手を施した遊びではない気がするんです。


 師匠はああ見えて………やさ…優しいんですよ…

 性格悪いし、本当に性格が悪いし、どうしようもない程に性格は悪いですが、


 希望的観測ですが、幾らSな師匠でも弟子の命に関わる事なんかさせない筈。多分。うん多分。


 うぅん………? 何だか自信がなくなって来ました。


 師匠ならやり兼ねないので、如何ともし難いです。



「よぅ…し…、行きますかね」



 小休止もそれまでと、自身を戒め、一体化していた背中を壁から剥がし、歩き始めます。


 少し進むと、もはやお馴染みになった右、左、真っすぐの分かれ道に着きました。


 当たり前ですが、その曲がり角に真新しい傷はありません。


 これから再び、目印を付けながら、手探りで進んで行くしかありませんね。



「ふぅ───………」



 何か、壁の角に傷を付けられる物が地面にないか、膝を折り曲げて探します。


 前回は都合よく、すぐに尖った石コロを見つける事が出来ましたが、今回はそうはいかないようです。


 その時でした。


 ゾクッした悪寒を感じ取ると同時に、この世のものとは思えない咆哮が辺りを打ち壊す程の声量で、響き渡りました。


 わたしは反射的に立ち上がり、己が今しがた辿って来た遥か後方を静かに睨みます。



───わたしがさっき繰り出した魔法なんて───きっとテレサレッサが見せた加減したと言う風の魔法と同等、いやそれ以下だと思います。


 魔法で水(っぽい何か)を成し、それが球となってぶつかった。


 小さな薬筒に入れた僅かなエーテルに、これが初めての魔法行使となるわたし。


 そんな新人が放った魔法は、あんな大きな化物を本当に無力化出来たんでしょうか?


 此からでも見て取れる、真赤い発光。


 再び、燃え上がり、盛り返すは───熱を帯びる炎の様。



「は、ははは………、ですよねぇー」



 疲れた笑いのまま、わたしは髪の毛を片手で掻き分けながら綺麗な赤に見惚れています。


 それは徐々に、こちらへと向かって来ました。


 何か喚きながら。


 轟音を晒しながら。






 斯くして始まった第二ラウンドは、わたしに絶望の思いしか齎しませんでした。





 

……………




……………




……………




「こうなれば、わたしだって自棄っぱちですよ」



 達観した何かを感じ、わたしは薬筒をあるだけ抜き出します。



「また消火してやるッ! いや今度こそ息の根止めてやる! やり方は適当ですが、これだけのエーテルを使って水の激流でもイメージすれば、凄い魔法が作れるかも!!」



 曰く、マガなんたらさんは指輪を嵌めてからというもの、魔法の失敗は死ぬまでなかったと、メドゥーサから聞きました。


 ならば今からわたしが繰り出す魔法は確実に成功し、何らかの影響が出るでしょう。


 それが水の激流クラスの大きな魔法かは分かりません。


 もしかしたら、何かとんでもない事が起こるかも知れませんが、行動を起こさなければ、この事態は好転しません。


 元より、現在の事態は底辺中の底辺。


 これ以上の底辺が起こると言うなら、上等ですよ。

 その時は潔く、諸手を挙げてやります。



「出よ! 何か、こうッ、わたしを助ける、魔法ッッ!!!」



 そう言いながら、わたしは計九つもの薬筒を、やり場のない怒りを込めて、足元に勢いよく叩き付けました。


 ある限りの薬筒───エーテルは、土の地面の上を少し跳ねた後、一つ一つバラバラに散りました。


 衝撃で全部の薬筒が、中身のエーテル液を零しています。



 後───何も起こりません。



「へっ?」



 思わず、素っ頓狂な声を上げた後、首を傾げました。


 ま、魔法は………?


 エーテルが残っている以上、魔法は発動してません。

 無情にも地面に滲みていきます。



「え? 失敗?? え、………えぇえええええええッッ!!?」



 ど、どう言うことですか!?


 魔法、失敗しないんじゃなかったんですか!?


 ど、どうするんですか!?


 今ので持ってる薬筒、全部使っちゃいましたよ!!



「うっそぉぉぉお!! こんな底辺アリですか───ッッ!??」



 納得出来ません。これなんて想定の範囲外です。


 これで諸手を挙げるだなんて無理ッ! 絶対!


 ゆっくりと次第に大きくなってゆく赤光に背を向けて、

 わたしは十字路を一直線に進んで、逃げ出しました。



「なにこの悲運ッ!? 悲運過ぎますよッ! うぅぅぅぅ………!!」



 目尻に浮かぶ涙は、留める事なく頬を伝い流れます。


 嘲笑うかのようにゆっくりと迫る火岩に対して、酷く矮小なわたしは、

 ろくに回復していない体力を盾として、逃げ回るしかありません。


 ただ逃げるだけでも、もはや時間の問題。


 しかし、死神の鎌は、わたしにその時間すら引き裂いて、与えませんでした。



「あ、…えッ!? そん……な………、そんなぁッッ!!」



 進んだ先には、進路を阻む無情な壁。


 わたしはそれを必死で叩きますが、ビクともしません。


 完全なる行き止まり。


 頭を切り替えて、急いで道を戻るべく踵を返します。



「……ぁ、ぁ、ぁぁ………」



 呻きと言う名の絶望が口から漏れました。


 戻りたい十字路を塞ぐように、メラメラと燃え立つ大岩が、そこに君臨していたから───




───我が魔力の還元によって奉る───




 まだ少し距離があるにも関わらず、身体全体が火傷する程に熱いです。


 それを苦痛に感じている余裕すらありません。


 背後は壁───


 目前には、巨大な火岩───


 あぁ、終わった。もう、ダメですよ、八方塞がり。


 思いが走馬灯のように頭の中を駆け巡りました。


 無謀な夢、だけど大切で、だからこそ追い掛けたい。


 魔法使いになる為に、ディレイの人達と別れ、テレサメドゥーと魔法試験を受ける為、オディールに来ました。


 しかしまだ、わたしは魔法使いにすら、なれていません。何も…成してない。



 孤児だったわたしを此迄大切に育ててくれたディレイの皆さん


 優しくちょっと変だったディレイの先生。


 こんなクズなわたしを向こうで待ってくれている、テレサレッサにメドゥーサ。


 みんな…



───其の第一節から第三節まで当座───



 師匠───



「いやっ………いや、いやぁぁああああああああああああああああッ!!!!!!!」




 死にたくない───、その精一杯の悲鳴は、


 無情にも響いた轟音によって


 くしゃくしゃに揉み消され───


 


 ズドーン!と、この洞窟全体を揺るがす程の轟音に、堪らず瞼を閉じました。


 その衝撃には地面すら踊ります。


『せめて痛みなく逝けますように』と心中で祈りつつ、最期の刻に観念しました。



「あーあ…勿体ねー。サヨナラだマイペット」



 その聞き覚えのある、声を聞くまでは。



「………へ………?」



「おー、生きてたかアズサ。上出来だ。褒めてやるよ」



 恐る恐る瞼を開くと、そこにあの火岩はなく、代わりに黒い外套をバサリと靡かせて、

 漆黒より更に濃い黒の髪を持つ方が神々しく立っていました。


 その、わたしにとって幻想的な光景を前に、視界が滲みます。


 その声色、その容姿。

 見間違う筈もありません。


 真っ黒な魔法使い。魔女。



「し、し、ししししし、師匠ぉぉおおお!!!!!」



 わたしは、夢でも見てるような展開に浮足立ちつつ、師匠の下に、ありったけの気力を振り絞って駆け走りました。


 思い切り抱き着いて、生の喜びを噛み締めたいです。



「えぇい、キモイ」



 ですが、師匠の裏拳で、わたしの顔は見事、真横の壁に埋まりました。



 おぉぉ…、師匠だ………


 これは、夢じゃない、



 です………




  

 





 

 


 

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