たった一つの願いの最適解ーキャンサー・ゲームー

時化滝 鞘

第1話 自己紹介

 やあ。突然失礼するよ。

 僕は「キャンサー」と名乗っておくよ。僕はいつでもどこでもこの名を名乗る。本当の名前?昔の名前なんて、昔の世界に捨ててきたよ。

 どういうことかって?簡潔に述べると、僕は異世界から来たんだ。そう、次元を異にする外世界からの闖入者。それが僕さ。

 実は、前いた世界が「終わり」を迎えちゃってね。ああ、詳しくはまた後でお話しするよ。とりあえず、僕は「終わり」を迎えた世界から跳んできたんだ。どうだい、すごいだろう。何、胡散臭い?証拠?今はちょっと見せられないな。

 まぁ、受け入れられないのも無理ないね。僕だって、いきなり「自分は異世界人です」なんて名乗り出てくるやつがいたら、まずは心のお医者さんを勧めるもんね。ああいや、駅前の無料のお医者さんとかはいいからさ。僕はマジだって。本物の異世界人なの。いや、証拠出せって言われても。逆に何を出せば僕を本物と認めるんだい?

 ん?じゃあ、他に僕のような「異世界人」はいるのかって?残念ながら、いないね。「終わり」を迎えた世界は、生物も無生物も崩壊しちゃうから。僕以外はみんないなくなっちゃったんだ。なんか矛盾してる?いい勘してるね。なんで僕は生きてるのかってことだろう。それこそ、僕の「力」によるものなのさ。どんな力なのか?早まっちゃいけないな。ゆっくり、じっくりと話そうよ。これが最後の会話かもしれないし。ああ、これから始まる、「ゲーム」についても詳しくね。

「ゲーム」って何かって?僕はこれを「キャンサー・ゲーム」と呼んでいるよ。おっと、この先は、また後で、じっくりとね。今は名前だけ、心に留め置いてくれ。エキサイティングなゲームになるよ。世界が吹っ飛ぶほど、ね。

 さてと、キミはどんな「願い」を持っているかな?

 この問いかけに、すぐさま答えられる人は、そう多くはいないだろうね。人はいろんな願いを持っている。お金持ちになりたいとか、死にたくないとか、どんなことをしても捕まらないようになりたい、とか…。

 え?それは「願い」じゃなくて「欲望」だろうって?うん、一理ある。じゃあ聞くけど、願いと欲望の境目ってどこ?

 例えば企業の商売繁盛を願ったとしよう。これが経営者の腹の肥やしにするためだけなら、確かに「欲望」だ。だけど、従業員の生活のためにそれを願ったのなら、それは「願い」と言うだろうね。さて、伏見稲荷に鳥居を奉納した企業は、果たしてどちらを願って奉納したんだろうね。さあ、商売繁盛を願うのは、願い?それとも、欲望?

 わかったろう。所詮は人の価値観でしか「願い」と「欲望」は区分できないのさ。例えが極端すぎる?そうかな?じゃあ別の例えをしよう。

 世界の平和を願うのは、「願い」かな?じゃあ、その世界の平和は、誰が達成するべき?アメリカ大統領?ロシア首相?国連事務総長?それとも、他の誰か?

 何の話か分からない?紛争を収めるには、「調停者」が必要だ。世界中の紛争の調停を、誰の権限でやるのかって話だよ。その調停は、誰の価値観のもとに正しいの?他の国や地域、民族と、軋轢を生まずに調停できる?

 わかるかな?「誰かの基準で世界を統一する」と願う限り、世界の平和は「願い」ではなく「欲望」に近い。「世界中の人が平和な心を持ちますように」と願っても、それは価値観の押し付け。崇高な「願い」の影の、真っ黒な「欲望」なのさ。

 そう、願いと欲望は同一なんだよ。単純に誰かの価値観で分化されているにすぎない。ま、これはとある人からの受け売りなんだけどね。これも後で話そうか。

 さてさて、さらに質問。これはよくある質問だけど。「たった1つだけ、願いが叶う」として、キミは何を願う?ただし、願いの数を増やすという願いは叶わない。

 まぁ、普通の人は迷うだろうね。たぶん、多くの人が速攻で思いつくのが、無限の財産や、世界で最高峰の地位とか、最高の伴侶みたいな、俗っぽいこと。でも、すぐに頭を冷やして、あれこれと悩むんだ。そして、世界の平和とか、武器のない世界とか、大きなことも考えてみる。

 仕方ないことだよね。誰だって、たった1つの願いを、自己満足のために使うか、もっと大局的に見た使い方をするかで悩むんだ。どっちにしろ、金銭欲や名誉欲の類なのはほぼ間違いないけどね。

 いや、それで正解なんだよ。さっき言ったように、願いと欲望は同一。どの願いを選ぼうと、それはその人にとって、本当に叶えたい願いであることに間違いはないよ。カートゥーンでよくある、「私利私欲のために願い事を使うと、しっぺ返しを食らう」ってパターン。あれも教訓にはなるけど、自分のためだけに願いを叶えることも、決して間違いではないのさ。

 さて、僕という存在が何か、わかってきたかな?ん?願いを叶えてくれるのか、だって?残念。不正解。いや、まったくの不正解じゃないかな。限定はするけど、キミの願いを叶えてあげなくはないよ。もっとも、必要条件は厳しく設定させてもらってるけどね。そうそうポンポン願いを叶えるなんてやってたら、逆に世界が破滅しちゃうじゃないか。それは僕のポリシーに反する。世界は、終わるときも、美しくあらねばならない。醜い終焉なんて、誰が望むのさ。

 僕はね、願いを叶えてもらったのさ。不思議な力によってね。どんな願いかは、おいおい語るとしよう。ただ、ヒントくらいはあげるよ。

 ヒント1。本当にお金持ちになり続ける方法は何でしょう。ドルを中心として、今の世界は回っているね。短絡的に考えれば、ドルをいっぱい持てば、大金持ちだ。でも、そのドルが暴落して、新たな通貨が世界の中心になり替わったら?紙くずになったドルを持っていたって、何にもならない。一気に貧乏生活だ。このジレンマを解決する方法は?金を持てばいい?金の相場は変動する。一気に安くなる可能性も、ゼロではないんだよ。安定的に自分の資産を守る方法を考えてみようか。

 ヒント2。これは僕の考え抜いた末の結論にもなる問題だけど。たくさんの願いや欲望を、いっぺんに叶えられる願いとは?さっきも言ったけど、人はたくさんの願い、欲望を持つ。それらを、たった1つの願いで、叶えられる方法を考えてみよう。自分自身に願いを叶えられる力を手に入れる、かな?確かにそれでもいいんだろうけど。僕はさらに頭を巡らせて、「答え」にたどり着いた。

 さて、話を進めようか。僕の始める「ゲーム」と、その他多くのことを話そう。だって

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