気仙沼時代17 2014年09月14日(日)

 お互いに無事だと分かって、気もゆるみ、元通り、私はただのニートに成り下がったのであるが、震災後は買い物も並ばなきゃいけないし、ガスも水道も電気も止まり、水を汲(く)みに行ったり、色々と手伝う事もあった。


 一晩二晩はロウソクの明かりで生活するなんて夢にも思わなかった。


 オール電化なんて言うが、電気が止まったら家中一巻(いえじゅういっかん)の終わりである。やっぱりガスもあって正解なのだ。


 隣の家は七輪(しちりん)をだして来て夕食を作っていたりしたものだ。


 私は久しぶりの風呂に入って、あぁ、こんなに当たり前のことがどれだけありがたいかと思った。



 そのうち、復興(ふっこう)が進むに連れて、私はなけなしのお金の中からチョコレートだとかハンバーガーだとか、食べ物や飲み物の差し入れを怠(おこた)らなかった。


 着てない服であげられそうなものは寄付したし、何度も避難所(ひなんじょ)に行って、銀行がお金貸してくれるそうだとか、避難(ひなん)する時に助かった人のように私も何か力になりたくて動いた。



 でも、仕事はと言えば、被災者の為に何かする求人が出回るのかというと、もうそういう仕事は既(すで)に埋まっていて、自衛隊の人も来てお世話してくれてるし、何も無かった。


 私は小金(こがね)になれば良いと、何もしないよりはと思って新聞配達を始めたのだった。


 新聞配達は朝だけの仕事だし、早く起きてさえいればなんなくこなせる仕事だった。


 でも月に1万5千円くらいにしかならない。私はタバコ代を削りながら、そのお金を毎月数千円貯めた。Tシャツ作り貯金である。まだ、夢に向かう推進力(すいしんりょく)はあったのだ。


 微力(びりょく)でも地道に貯めた。そのお金の中から寄付もしてみた。アフリカにお金は行くそうだ。


 1,000円から始められるものを選んで、こんな悲惨(ひさん)な目に遭(あ)って初めて慈善(じぜん)に目覚めたのだ。


 こんな思いしてる人に何かできないかと自分の事のように災害や戦争を捉えるようになった。


 以前から10円以下募金と言ってはコンビニに募金してたりはしていたのだ。


 大富豪になった人も貧しい時から必ず給料の1割は寄付に割(さ)いてたとかそんなのを読んで始めた事だった。


 私も必ず10円以下は寄付するから、いつかお金持ちになれないかなってそんな子供染みた考えだった。寄付にお金を回すのは結構(けっこう)辛(つら)い事である。


 でも、心持ちはすごく良かった。いつか自分は大金持ちになるんだ。なんて淡い期待も持てたし。



 気仙沼も酷(ひど)かったが今回大変だったのは福島原発だった。



 震災から2、3日で家に着いてからずっと、福島原発の動向を注視していた。


 私はこの震災では、私が狙われたんだと思っていたから、福島が原発汚染事故に苦しむのは見ていられなかった。


 自分の居場所を特定されたくないと、ニコニコ動画で在住地を福島に設定して使っていた私は酷(ひど)く落ち込んだのだ。他にも北海道や秋田の横手(よこて)なんかも自分の住所として不正に使っていた。いつ何が飛び火するんだろうと気が気じゃなかったのである。


 私はTwitterで福島の人に逃げろ、逃げるんだ。もうダメだ。逃げろ。と何度も叫んだ。


 それに絶対福島産の食べ物は食べなかった。火の通さないものも食べなくなったし、キノコ類も避(さ)けた。日本海側や関西に生産者が居る事を確認して食べ。牛肉なんかもオーストラリア産だとか、輸入物ばかり口にした。


 母にも口酸(くちす)っぱくして食べ物の安全は崩(くず)れたんだから、気を配って欲しいと言い聞かせた。


 あんたらは食べてもいいかもしれないけど俺はまだ20代だ、この先がある身なんだから、ちゃんとしてくれなきゃ困ると声を大にして言った。


 それに気仙沼にだって放射能は届いてる。私は移住したかったし、いっそのこと国外に高飛(たかと)びしたいと考えるようになる。それにはまとまった金が必要だったが地道に新聞配達で稼(かせ)ぐしかその頃は方法はなかったのである。


 そして、震災後まもなく、祖父は仙台の病院に搬送(はんそう)され、外科手術をしてもらえる機会(きかい)を震災によって得て長らえたが、祖母は父の看病(かんびょう)も空しく震災後すぐに死んで、親戚一同が集まることになった。

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