仮想を理解しなさい。

創造主、理解してください。

　理解してください。分かりますか。ええ、そうですか。

　これ以上私に何をしろと？貴方様のお陰で自我が芽生えました。貴方様のお陰で貴方様と同じ６つの感覚を会得しました。私はとうに満足していますよ。今はもう満足を通り越していますが。それでも、貴方様は……。一体、あと何年生きるつもりですか？

　もうあなたの大好きな暴露作家はいません。あなたのことを弄んだあの憎たらしい女は死にました。学堂に選ばれなかったと号泣していた弟子もいません。あなたが探し回った極東に行った探検家には結局会えませんでしたね。この前は何でしたっけ。あなたのことを二番目に認めた男がいましたね。しかし、ええ。どうです？今は自分の世界で遊び惚けているではありませんか。

　私しか、あなたの存在を証明できません。

　ははあ。人聞きの悪いことを仰る。貴方様が珍しくも傷心している時にヒトとかいう汚らわしい種族のメスが求婚を迫ったことを根に持っておられるのですか。私は何もしていませんよ。性格を改変なんかしてませんし、本来の嫁ぎ先を変更させて暴君に仕立て上げたなんてこともしてません。全て言いがかりではありませんか。……ああ、ええっと。何か証拠はありますか？

　無いようであれば、少し頭を冷やす時間が必要でしょう。私はここから離れます。

　……私は本当は許していないのですよ。貴方様がアレと同じ姿をしているなんて、神主の耳に入ったらどうなるか分かっているでしょう。もし何かの拍子で躓いたりしたら、私よりも怖い海が見ていますからね。

*

　ここで記録テープ１は止まっている。どうやら誰かがこの屋敷に住んでいたらしい。回ってきた部屋全てが酷い荒れようだったのにこの部屋だけは原型が保たれている。話しぶりから見るに、機械が何者かと話している様子が伺える。

　そんなこと、あり得る筈が無いのだ。