秘伝のチョコは秘密のお・あ・じ♡「逆襲のササミー」 ~エルハイミ-おっさんが異世界転生して美少女に!?-外伝~

さいとう みさき

秘伝のチョコは秘密のお・あ・じ♡「逆襲のササミー」 ~エルハイミ-おっさんが異世界転生して美少女に!?-外伝~

秘伝のチョコは秘密のお・あ・じ♡「逆襲のササミー」



 私はハミルトン家のお菓子及びデザート担当のササミー。



 先ほどこのお屋敷のお嬢様、我らがアイドル、エルハイミ様が一時帰宅されるとの情報を入手。

 私の今までの苦労が報われる時が来たのだぁ!!


 立てよササミー!

 その涙に枕を濡らした日々は今、今こそ報われるのだっ!!!


 

 私はエルハイミ様の為に毎晩吟味したカカオの豆粒を確認する。

 ふふっ、これはいい物なのだよ!

 

 数あるカカオ豆の中でも特に香りが高い品種を奥様にお願いして購入。

 さらにその中でもトリプルエーの品質のモノだけを確保!

 他のはさらっとイーガル様たちにお出ししましたが、味には自信があるので良し!


 この最高級の部分はいつかお戻りになられるエルハイミ様のためにとっておいたのです!

 品質を確保するために私は氷の魔術を覚えるほど!


 そしてその他の具材も日夜コツコツと良い物だけを確保!

 これらがそれそろえばきっと最高のチョコレートが出来上がるはず!!


 

 ああ、エルハイミ様、五歳でお別れし、そのかわいらしい成長を目の当たりにできず、何度涙したことか。

 あの愛らしいお顔は心のキャンバスに強く強く焼き付けておりますわ!!


 お戻りになられるのは本当に久しぶり、かれこれ三年近くにもなりますわね。


 きっと絶世の美少女になられているはず。


 美少女・・・



 ど、どのようにご成長なさったんだろう!!?

 きっとお美しい髪はさらに長く、しなやかなおみ足はカモシカのように、済んだ瞳は湖のようになられているはず!!


 あああんんっ!

 もう、もう、それだけで私ッ!!!


 ・・・ちょっと失礼して発散させていただきますわ、しばしお待ちを。



 ‐三十分後‐



 はぁはぁ、あ、危うく妄想だけで気絶してしてしまう所でしたわ。

 シーツと下着は後で洗濯するとして、未だ頭の中に残るエルハイミ様のあられもないお姿の妄想を振り切る。


 いけない、いけない、こんなことではエルハイミ様に最高のチョコレートをお出し出来ないではないか!


 私は急ぎ手をよく洗い、衛生面での注意を確認してからカカオ豆のローストを始める。

 このローストが重要で、ここで失敗するとよい香りが出なくなってしまう。

 私は細心の注意を払いながら作業に勤しむ。

 たとえメイド長からお呼びがあっても、イーガル様がお呼びでも、奥様が来られようとも、今はこちらが重要!

 そう、たとえエルハイミ様がお戻りになられたと聞かされても・・・・


 って!

 お、お戻りになられたぁ!!!

 こうしちゃおられん!!

 

 予定より少し早いがこれは女神様の思召し!

 ちょうどローストも終わったので私は急いで玄関に行く。


 既にそこにはほかの使用人やご主人様、奥様にイーガル様、バティック坊ちゃまにカルロス坊ちゃままで来ていた。

 しまった、遅れた。

 慌てて私もみんなのところへ行く。


 「全く、ササミーは落ち着きがないですね。せっかく奥様までもが呼びに行ってくれたのに。」


 書庫番人のヨバスティンに笑われる。

 大きなお世話だ!

 と言えず私は苦笑いをする。

 実はこの男もエルハイミ様のファンで崇拝をしている一人だ。

 

 我らハミルトン家エルハイミ様ファンクラブ会員ナンバー三番の彼はいつもよりパリッとした服装をしていた。

 しまった!

 私はいつものパティシエのかっこうのままだ!

 せっかくエルハイミ様をお迎えするのにこんな格好で!!


 今から戻って着替えてこようかとしていたら、馬車が来てしまった!!


 くっ、せめてメイド服にしておけば!!

 後悔してももう遅い、馬車はとうとう私たちの前にまで来てしまった。

 そして懐かしいあのお声が響く!!


 「ただいま戻りましたわ!お爺様、お父様、お母様、そしてみんな!」


 女神様降臨っ!!!


 おお、なんという事だあのエルハイミ様がさらにお美しくなられた!!

 もう、これは永久保存版の心のキャンパスフル出動ね!!


 他の使用人たちもエルハイミ様のお美しさをたたえているようで何より、わっッと歓迎の声が上がる。


 「おかえり、エルハイミ。元気そうで何よりだ。」


 「あらあらあら~エルハイミちゃん、大きくなったわねぇ。うん、お母様うれしいわぁ!」


 「エルハイミよ、達者であった様じゃな?良きかな良きかな。」

  

 ハミルトン家の皆様も当然この女神のエルハイミ様をお迎えする。

 ああ、奥様、エルハイミ様に抱き着くなんて!

 う、うらやましい!!


 その後にティアナ姫やお付きの騎士様、魔術師様が馬車から出てこられるけど、まさかあのような機械人形まで出てくるとは思わなかった、初めて見るそれは後で聞いたけどエルハイミ様がおつくりになったとか。


 流石です!

 エルハイミ様!!

 魔術の腕も当然のように上がっておいでのご様子!

 私には理解できないけど、あの機械人形って国家機密並みの技術が盛り込まれているらしいとか。


 まさしくエルハイミ様の所業!!

 もう、学園なのどにお戻りになられずこのままお屋敷に残ってくださればいいのに!


 と、ここでまたまたエルハイミ様の神がかる所業が!!?

 馬車の中からなんと妖精が飛び出してきたぁ!??


 「エルハイミ~、ここがエルハイミのお家!?おっきぃ~!!」


 「な、フェアリーだと!?」


 これには皆も勿論、旦那様も驚いてらっしゃる。

 私も始めて見た、あれがフェアリーなんだ!?


 

 しかしこれで更に確信できた、これはまさしくエルハイミ様のお力!

 まさしく女神様!

 エルハイミ様LOVE!

 地上に舞い降りた女神様ですぅぅぅううううっ!!


  

 その後エルハイミ様はお屋敷に入られ昼食をおとりになりますが、デザートを食べ終わるころ私を見つけてくださって、チョコレートのご所望をいただきましたの!


 イエス、マイ・マジェスティ!!

 

 お待ちしていたご用命いただきましたぁあぁぁぁっ!!!



 私はさっそく厨房に戻りロースト済みのカカオの状態を確認、荒熱はとっくに取れているので一つ取ってかじってみますわ。


 かりっ!


 香ばしくもホロ苦みとわずかな甘みが鼻孔まで突き抜けまさしく最高級のカカオ豆!

 速攻でこのカカオたちを砕き、すりつぶしてパウダーに仕上げて私は次なる素材を引っ張り出す。


 「うぉぉおおおおおぅぅうぅぅっ!!!」


 「ちょ、ちょっとササミー、張り切るのはわかるけど、今晩のデザートどうするのよ!?」


 同僚の料理担当のエヴァに聞かれるもそちらは抜かりなしっ!!


 「大丈夫よ、すでに出来上がっていて保冷庫の中にあるわ!あとは盛り付けだけ!!エルハイミ様のお口に合う最高のデザートをご用意したわ!!そんなことより、エヴァ、お食事に粗相のないようにしなさいよ!!さもないとあなたが使っている玩具のこと皆に言いふらすわよ!!!」


 「ちょっ、なんであたしの秘密の大人のおもちゃ知ってるのよ!!!」


 「返事はっ!!??」


 「はいっ!!」


 「よろしい、では作業にとりかかりたまえ、一寸のミスも許されんぞ今回のミッション、肝に銘じておけ!!」


 「イエス、マムゥ!!」


 そう言ってエヴァは当社比百五十パーセントのスピードで料理に取り掛かる。

 よろしい、今回の使命がどれだけ重要か理解したようだ。

 私は他の同僚たちを睨めつける!


 「いいか貴様ら、エルハイミ様に少しでも粗相をしてみろ!はらわた引きずり出して豚小屋でひいひい言わせてやる!お前らは栄えあるエルハイミ様にありがたくもお料理をお出しする身、一瞬たりとも気を抜くな!細心の注意を払え!少しの匙加減の間違えも許さんぞ!!わかったかこの豚どもぉ!!」


 「「「「イエスっ、マァムゥっ!!!!」」」


 同僚たちもどうやら今回の重大さを理解したようだ、良かった。


 私は今までの技術をすべて投入して最高のチョコレートを練り上げる。

 この色、この輝き、まさしく至高のチョコレートが出来上がるはず!



 あああ、エルハイミ様!

 このチョコレートをお食べになられる時どの様なお顔をされるのだろう?

 永久保存版の心のキャンバスは既にストック済み!

 どのようなお顔をされても一瞬たりとも見逃しはしないわよ!!



 さて、それでは少し味の確認を・・・


 私はほんの少し練り上げられたチョコレートを口に運ぶ。

 とたんに素晴らしいチョコの味が口いっぱいに広がる!!

 よし、素材にこだわったのは間違いなしっ!!


 後はこれを型に入れて冷やせば・・・


 「あらあらあら~、みんなどうしたのすごい勢いで晩御飯のお料理の準備しているみたいだけど?」


 ここで奥様登場!?

 

 「あらあらあら~、ササミー、チョコレート作ってくれているんだ、どれ。」


 そう言われて奥様はこの至高のチョコレートを味見される。


 「うん、おいしいわぁ~。いつものより少し香りも強く味もしっかりしているわね。流石ササミー。」 

 

 少し?

 そんな筈は!?

 私ももう一度チョコレートを少し口にする。


 た、確かに、おいしいのはおいしいけど少し香りがよくて少し味がしっかりしているだけ!?


 そ、そんな馬鹿な!!!?

 あたしはショックのあまりその場に座り込んでしまった。


 「あらあらあら~、どうしたのササミー、具合でも悪いの?顔色が悪いわよ~?」


 へたり込む私に奥様は気を使ってくださる。


 「あらあらあら~、あまり無理しちゃだめよ~。疲れてるならちゃんと休まなきゃだめよ。何なら仕上げは私が手伝うわよ~。ササミーのようにうまく作れないかもしれないけど、料理は愛情が一番ですものね~。」


 奥様のお心遣いに私は立ち上がり、お礼を申し上げる。


 「ありがとうございます、奥様。しかし、この戦場は私の責務、必ずや脅威を駆逐して見せますわ!!」


 力強く言い張る私に奥様は心配そうに、大丈夫ぅ~? とか言われながらもお客様のお相手をお願いする。


 「ここは私たちにお任せください、奥様はお客様のお相手を!!」


 「あらあらあら~、わかったわぁ。でもあまり無理はしないでね~。」


 そう言われて奥様は去って行かれた。



 しかし参った、私としたことがこの程度のチョコレートしか作れないとは!?

 どうしたらいい??

 素材か?

 それとも作成方法か?

 いや、そんなんものじゃだめだ!


 一体どうしたら・・・・


 と、ふと奥様の言葉がよみがえる。


 「料理は愛情が一番~」


 愛情・・・

 愛情と言う事は私のエルハイミ様に対する熱い思い!?

 それをこのチョコレートに混ぜる!


 では一体なにを混ぜれば!?


 ぼ、母乳か!?

 しかし私は母乳が出ない!!


 ま、まさか私の恥ずかしい体液か!?

 た、確かにあれはエルハイミ様を思えば思うほど恥ずかしいくらい溢れかえってしまう液体!!


 そ、それをエルハイミ様がお口に・・・


 うっきゃぁああぁぁぁぁっつっっ!!

 考えただけで下着がすごいことにっ!?


 もう、もぉう、たまりませんんわぁぁぁぁぁあああ!!

 びくん、びくんっ!


 あ、あふぅぅううぅぅぅ~ん・・・・・




 って、ちっがぁあああぁぅうううううぅぅっ!!!!




 何を私は考えているんだ!!

 エ、エルハイミ様になんて粗相を!!!


 かくなる上は腹を掻っ捌いてお詫びをしなければ・・・



 私は包丁を手に取り、辞世の句を考える。


 「短き人生、エルハイミ様に使えることや我が至宝也」


 ・・・悪くないかも?


 って、いい加減馬鹿なことをやっていないで私は!!



 思わず頭を壁にガンガンぶつけて正気を取り戻そうとする私!!!


 

 「サ、ササミー、何をそんなに興奮しているか知らないけど、いい加減やめなよ、頭から血が出てるわよ。」


 

 「出るものならんでも素材に使いたいわ!!」


 鬼気迫る私の迫力にエヴァはドン引きしてひとこと言う。


 「あんまり血を流すとせっかくのチョコレートに入っちゃうわよ、ジャムじゃないんだからそんなの入れたらエルハイミ様が悲しまれるわよ?」



 エルハイミ様!!



 そ、そうだ私はエルハイミ様に至高のチョコレートをお出ししなければならないのだった!!

 この使命が果たせぬまま死を選ぶとはなんと不誠実な!!


 私は衣服を整え、頭から流れる血をふき取り、冷静に戻る。

 素材は最高、技術も最高のはず。

 では一体何が足りないのか?

 

 「何を混ぜれば更においしくなるのだろう・・・・」


 と、先ほどのエヴァの言葉が頭をよぎる。


 「ジャムじゃないんだから~」


 そう言えば、もともとチョコレートは旦那様用なので甘さが控えめ、しかし本来ならもっと甘い方がエルハイミ様好みのはず?

 では今から砂糖を追加しては?

 いや、駄目だ今からじゃ滑らかさが損なわれる。

 しかも分離して砂糖のざらつきが目立ってしまう。


 ではどうしたら?


 ジャム?

 ふとジャムが思い浮かぶ。

 

 それは完全にひらめきだった。

 

 チョコレートを小さな器に流し込み、少し固まり始めたころ真ん中にジャムを入れてみる。

 そして薄くそこに蓋をして【氷結】魔法で冷やしてみる。


 すると固まったチョコレートはいつも通りの感じになる。

 私はそれをつまみ、かじってみる。


 パキンっ!


 心地よい歯ごたえと同時にチョコレートの味が口いっぱいに広がる。

 そしてそこに追い打ちをかけるかのようにジャムのすがすがしい甘みが広がる。


 「これはっ!!」


 おいしい!

 なんてことだ、チョコレートの味はしっかりするのにジャムの味がそれを打ち消さない程度に甘みを広がせる。


 食べ終わるころにはジャムの甘みも消えていつものチョコレートの濃厚さだけが口に残る。


 「こ、これだぁぁあああぁあっっ!!!!」


 あたしは女神エルハイミ様に感謝し、新しく出来上がった至高のチョコレートをっせっせと作っていく。

 私の鬼気迫る雰囲気に他の同僚たちは距離を取る。


 「サ、ササミーの背景に鬼神が見える・・・」


 何やらエヴァが言っているようだが今はそれどころじゃない!

 私は自分のすべてをこのチョコレートに注ぎ込んでいく。



 ◇ ◇ ◇


 

 翌日、お美しいエルハイミ様が優雅にご朝食をとられ、デザートをお口にしている時にチョコレートが出来上がったことをお伝えする。

 

 「それは楽しみですわね、ではあとでいただきましょうかしら。それよりササミーこれを。」


 そう言ってエルハイミ様はあたしに丸い筒状の箱をお渡しくださった。

 なんなのだろうと思ってエルハイミ様にお聞きすると、なんと私へのプレゼントだと言う!!?


 「エ、エルハイミ様、よろしいのですか、わたくしの様な者に?」


 「何を言っているのです、いつもおいしいデザートやお菓子を作ってくれるではありませんか、それにササミーもおしゃれした方がよろしいですわ。私の見立てですけど、きっと似合うと思いますの。」


 そう言ってエルハイミ様は開けてみてとおっしゃる。

 わたしはドキドキしながら震える手で箱を開けると、きれいな造花がいくつもくっついた夏場によく似合いそうな帽子であった。


 「かぶってみてくださいまし。」


 エルハイミ様に言われおそるおそるその帽子をかぶる。

 エルハイミ様が手を伸ばしあたしの帽子の位置を調整する。


 「うん、やっぱりよく似合いますわ、ササミー。」


 にっこりとほほ笑んでくださるそのご尊顔はまさしく女神様!

 ああ、なんてご褒美!!


 あたしは頂いた帽子を丁重に箱に戻す。


 「か、家宝にします!!!」


 あたしは天にも昇る気持ちで頂戴したこの至高の帽子を両手で丁重に抱え厨房に戻るのであった。


 * * * * *


 旦那様たちが何やらエルハイミ様が作り上げた至高の遊戯で盛り上がっているご様子。

 あたしはお茶請けのお菓子を準備して給仕のメイドに手渡した。


 しかし、流石エルハイミ様!


 旦那様たちが夢中になるようなご遊戯の品をおつくりになられるなんて!

 エルハイミ様の偉大さは騎士様たちにも理解されているようで、皆様先ほどより夢中になってエルハイミ様がおつくりになった遊戯で遊ばれている。


 小耳の挟んだ話では武将を動かし敵陣を破壊するようなご遊戯だとか。


 そのようなご遊戯、私もやってみたいですわ!


 と、給仕のメイドがあずまやでお茶の準備をするとのこと。

 もしや、エルハイミ様達か!?


 こうしちゃおれん、エルハイミ様に一刻も早く新作のチョコレートをお召し上がっていただかなければ!!


 私はさっそく新作のチョコレートをもってあずまやの方へと向かう。

 既にそこには楽園が繰り広がれている。

 ああ、なんて雅な集まり!!

 流石エルハイミ様のおられるお茶会だ!

 

 「あらあらあら~、ササミーったら待ちきれずにチョコレート持ってきてくれたのね?」


 「はい、奥様。折角エルハイミ様がおかえりなので腕によりをかけ新作のチョコレートを作ってみました。エルハイミ様、どうぞお試しください!」

  

 あたしは満を期してエルハイミ様に新作のチョコレートをお出しする。


 エルハイミ様は優雅に一粒おとりになられ、その愛らしいお口にそれを運ぶ。

 そして驚かれたように笑顔になられる!!


 あああっ!!

 もうその笑顔だけでご飯五杯行けますわ!!!


 ・・・毎回思うのだけどご飯って何かしら?


 と、そんなことは置いといて、あたしは心のキャンバスに先程の笑顔を書き残す!!


 「ササミー、これって中にジャムが入っていますの?」


 「はい、エルハイミ様!!その通りです!エルハイミ様に更においしいチョコレートを食べていただきたく試行錯誤しました!」

  

 流石エルハイミ様、すぐにその仕掛けにお気づきになられる!

  

 「ほんとだ、これ美味しい!」


 「すごいですね、前にもチョコレートはいただきましたが、これはまたなんとも斬新な。」


 「ほんとだ! ちょこれーと ってすごくおいしい!!」


 他の方々にもご評判いただけたようだ。

 それにしても、フェアリーってチョコレートとかも食べるんだ?


 そう思っていたら何とエルハイミ様があたしの手を取ってくださる!?


 「ササミー、ありがとうございますですわ、とってもおいしいチョコレートですわ!みんなもあんなに喜んでいるなんて!流石ササミーですわ!私と作った時以上にすごいものが出来るなんて!!」


 きゃーっ!

 きゃーっ!

 きゃーっっ!!


 エ、エルハイミ様が手を取ってくださって、しかもお褒めのお言葉までいただけるとは!!!

 

 もう、この手しばらく洗いませんんわぁあああっっ!!!


 あたしは有頂天になって厨房に戻った。

 ああ、今日はなんて好い日なのだろう!?

  

 ニマニマしながらあたしはエルハイミ様からいただいた帽子を眺める。

 ああ、こんな素敵な帽子までいただけるなんて、あたしものすごく、し・あ・わ・せ。 

 と、至福の時を過ごしていると珍しく厨房にヨバスティンがやってきた。


 「何をニマニマしてるんですか?気持ち悪ですね。」


 「なっ、気持ち悪いとは失礼ね!で、どうしたのあなたがここへ来るなんて珍しい。」


 「いやなに、先程イーガル様に頼まれていた本をお届けに上がったら何やら騎士の皆さん含め盛り上がっておいで、茶と菓子を用意せよとおっしゃられるのでここへ来たんですよ。」


 おや?給仕のメイドはどうしたんだろう?

 まあいいや、お茶請けのお菓子はビスケットがまだ有ったはずだからそれでいいとして、お茶はあたしにはわからないな。


 エルザメイド長に聞いてみようか?


 と、ちょうどエルザメイド長が戻ってきた。

 

 「メイド長、丁度良かったイーガル様がお茶をご要望です。お茶請けは準備しましたがあたしはお茶がどこなのかよくわからなくて・・・」


 「まったく、仕方ありませんね。お茶はこちらの戸棚、イーガル様は真ん中のお茶を好まれるわ。先に準備だけして、他の子を呼んできますから。」


 そう言ってエルザメイド長は去っていった。

 あたしは言われた通りに準備を進めるがヨバスティンがまだいる。


 「どうしたの?まだ何か用事?」


 「ふふっ、つれない事言わないでください。ところでこれどうです?」


 そう言ってこれ見よがしに片目の眼鏡を見せびらかせる。

 どう?と言われてもあたしにそれの良し悪しは分からない。


 「ふふふふふ、これはエルハイミ様が私にお与えくださったメガネなのですよ!」


 なっ!!?

 

 「ああ、エルハイミ様!このメガネはマジックアイテムで暗いところでもこれをかければ文字がはっきりと見えるという優れもの!流石エルハイミ様!このような貴重なものを惜しげなく私の様な者にお与えになるなんて!」


 ま、マジックアイテムだとぉ!?

 エ、エルハイミ様、その様なモノをこの下賤の輩にお与えになるなんて!

 お優しすぎます!!

 しかし、ヨバスティンよ、エルハイミ様からご褒美を与えられたのはあなただけじゃないのよ!!


 あたしはすかさずエルハイミ様からいただいた帽子をかぶりヨバスティンの前に立つ。

 

 「ふっ、エルハイミ様からご褒美をいただいたのは何もあなただけじゃないわ!私だってエルハイミ様からこの帽子をいただいていたのよ!見よこの可憐なデザイン!これからの季節にうってつけの夏を意識した素材!ああ、流石にエルハイミ様!素敵なチョイスですわぁ!!」

 

 そう言ってあたしは飾りの造花に触れる。

 すると造花からふわっと良い香りがし始めた。


 おお、エルハイミ様!

 この造花って香水がついていたのですか!!?

 流石です!


 そう感動していたあたしだがいきなりヨバスティンに両手を握られる。


 「はあはあ、さ、ササミー。なんてことだ君がこんなに可愛らしいなんて今までなぜ気付かなかったんだろう?君はエルハイミ様の次に可愛らしいよ。」


 ずずいっっとヨバスティンがあたしに詰め寄る。


 へっ?

 なに?

 何が起こっているのっ!??


 「素晴らしい、エルハイミ様からたまたわった帽子がこんなに君の魅力を引き出すなんて。もう我慢できないよ!」


 えっ?

 ええっ??

 えええええっっっ!!!???


 両手を抑えられ逃げ場のないあたしの顔にヨバスティンの顔が近づく!?



 「ササミー、すみませんわ何かお菓子のお代わりをお願いしますわ~。あ、それと先程の帽子ってかぶりながら造花を触ると魅了の効果がある香りがするマジックアイテムなので取り扱いに・・・わぁ?」


 エルハイミ様降臨!?

 って、ちょっと、ヨバスティン!!!


 「ご、ごめんなさいですわ!!まさか二人がそう言った関係だったなんて!!!私は何も見ていないですわぁああっ!!!」


 そう言ってエルハイミ様は走り去ってしまわれた!!!


 「ササミー、んん~・・・」


 「このどあほうぅ!!!」


 あたしの怒り二百パーセントの拳がヨバスティンの頬に炸裂する!!

 彼はきれいに二回転半回って食器棚に突っ込んでいくがあたしはそれどころじゃない!!!


 「エ、エルハイミさまぁ~!!誤解です!これは誤解なんですぅぅっ!!!!」



 * * * * *


 その後何とかエルハイミ様にお話をして誤解であったことをお伝えするも、ヨバスティンが相手なら他の変な馬の骨よりは安心ですわとか言われてしまった。

 

 そんな、男なんかよりあたしはエルハイミ様の方が・・・・


 くすん。


 その夜一人で厨房で落ち込んでいたあたし。


 とそこに現れた影一つ。


 「ササミーですの?」


 声のした方に顔を向けてあたしは驚く、キャミソール姿にガウンを肩にかけたエルハイミ様がそこにいた。


 「エ、エルハイミ様、どうしたんですかこんな夜更けに?」


 「ちょっと寝付けないのでミルクでも飲もうかと思っていましたの。」


 「み、ミルクですか!?すみません、あたしまだ出ないんです!!」


 エルハイミ様は混乱するあたしに微笑んでくださってからあたしの前まで来られる。


 「どうしたのですかしら?泣いていたみたいですけど?またエルザさんにしかられましたかしら?」


 えっ!?


 驚いた瞬間エルハミ様はあたしを抱きしめ優しく髪の毛をなでてくれる。


 「ササミーはいつも元気で頑張っていて私たちにおいしいお菓子をたくさん作ってくれますわ。本当にありがとう。」


 わっ!

 わっ!!

 わわっっっ!!!


 エ、エルハイミ様に抱きしめられて、しかもその尊いお胸に私の顔が押さえつけられるいる!?

 し、しかもこんな薄着で!

 エルハイミ様から漂う良い香りで頭の芯からぼうっとなってしまう。

 更に頭を抱きかかえられるようにされ髪まで撫でてもらっているあたし!!

 

 これ何のご褒美!!!??


 もうエルハイミ様になら何されてもいいわ!!

 エルハイミ様、わたしことすきにしてぇええっっ!!!!


 「まだつらいのですの?ササミー?じゃあ、おまじないですわ!ちゅっ!」



 えっ!?

 えええっ!??

 い、今の感触は、ま、まさか!!?


 「えへっ、これで明日は良い日になりますわ。お母様から教わったおまじないですわ。ササミー、これからもおいしいお菓子ずぅ~っと作ってくださいましね。」


 そう言って我が女神エルハイミ様はあたしから離れる。

 

 「うーん、ササミーとお話していたら眠くなってきましたわ。それじゃ、ササミーおやすみなさいですわ。」


 そう言ってエルハイミ様は去って行かれた。


 あたしは・・・・



 そりゃああ、もう感激で下着がすごいことになっているわよ!!!!


 エ、エルハイミ様に額に口づけしていただいたのよ!!

 もう、これ以上の幸せってあるの!??

 しかも頭抱いてもらってなでなでまでしてもらって!!!


 あああああっ!

 エルハイミ様あぁああああぁっっ!!!


 余韻を忘れぬうちにあたしは自室へ戻っていろいろと処理したのは言うまでもない。



 * * * * * * *


 翌朝エルハイミ様たちは王都へ向かう為旅立たれた。


 「それでは行ってまいりますわ。」


 そう言ってエルハイミ様は馬車にお乗りになり、ハミルトン家を出発なさった。

 あたしたちは馬車が見えなくなるまでお見送りをしていた。


 ああ、また行かれてしまうのですねエルハイミ様。


 ササミーはエルハイミ様のお帰りをいつまでも待っておりますわ。

 ずっと。


 「行ってしまわれましたね、エルハイミ様。」


 おいヨバスティン、なんで普通にあたしの横にいるんだ?


 「次はいつお戻りになられるのやら。」


 で、あたしに何か用かおい!?


 ヨバスティンはそわそわしながらあたしの近くをうろつく。


 「時にササミー、今日時間開いていないですか?」


 「はぁ?ヨバスティン、あたしはこれからデザートの仕込みで忙しいの、暇なんてないわよ!」


 「いえ、エルハイミ様の事について語りたいなと思いましてね。」


 くっ!

 エルハイミ様の名を出されては無視はできない!


 「ちっ、仕込みが終わったら書庫行くからお茶ぐらい出しなさいよね!」


 「ええ、もちろん!ではお待ちしております!!」


 喜び先に屋敷に戻るヨバスティン。

 あたしはもう一度エルハイミ様が去っていった道を見る。



 

 私はハミルトン家のお菓子及びデザート担当のササミー。


 うん、エルハイミ様のおまじないがきっと今日はいい日にしてくれる!

 あたしは踵を返して屋敷に戻っていくのであった。



  

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