第4話・原子核

さて、物語を進めていく。

ヨウシくんとチューセーシくんは、宇宙空間を並んで飛んでいるんだった。

ふたりが誕生して(宇宙が誕生して、ともいえるけど)から1分が経過、という頃合いだ。

すさまじい爆発時のてんやわんやがおさまって、くしゅくしゅに丸めた風呂敷をひろげるように空間ができつつあり、超高温もほんの少しだけ下がってきたようだ。

下がったとはいっても、10億度くらいもあるんだけどね。

まだまだあっちっちのちんちんだ。

そのうえに、できたてのせまい空間に、たくさんの生まれたての粒つぶがせめぎ合っている。

宇宙空間は、まるでぐらぐらと煮え立つ圧力鍋の中のような高圧状態。

ヨウシくんたちにとっては、過酷な環境だ。

だけどこれは、「核融合」という反応を起こすのにちょうどよろしい湯加減なんだ。

核融合というのは要するに、陽子や中性子が「ぶつかって、くっつく」現象だ。

くっついて、大きくなって、別の性格を手に入れ、なんとなくいかつい感じになる、くらいに考えておけばばいい。

あっちっちの中、周りとぶつかりそうになりながら、ヨウシくんは横目に見る。

するとどうだろう、一緒に飛んでいたチューセーシくんが、他の陽子ひとりを誘って、肩を組んでいるではないの。

どうやらふたりは、核融合をしたようだ。

ぶつかって、大爆発して(このへんは、ずっとあとで説明するよ)、ひとつにくっつき合ったわけだ。

陽子と中性子が何個ずつかでくっついたこの形を、「原子核」というよ。

のちに「原子」になるための「核」の部分だ。

陽子一個と、中性子一個とでくっつくと、「重水素」の原子核となる。

チューセーシくんは、三つのクォークを寄せ集めて中性子の姿に独立したあと、さらにひとりの陽子とくっつき、ふたりで重水素原子核のユニットをつくったんだ。

さらにチューセーシくんたちふたりの原子核は、同じタイプの重水素原子核ペアとグループ交際をはじめた。

ペア同士は、またしてもくっつき合い、四人組となる。

総勢、陽子二個と中性子二個のメンバーで構成される、「ヘリウム4」の原子核に昇格だ。

その様子をそばで見ていたヨウシくんは、理解した。

ぼくたち陽子や中性子は、どうやらこうして仲間を集めてはくっつき合い、雪だるま式にバージョンアップしていくことができるらしいぞ、と。

あたりを見まわしてみると、あっちでは陽子三個と中性子三個がくっついて「リチウム」の原子核が、そっちでは陽子四個と中性子四個がくっついて「ベリリウム」の原子核ができている。

「すい、へー、りーべ、ぼくのふね、なまえある・・・」とヨウシくんは数えあげはしなかったけど、そんな原子記号の若い、軽めの原子核が、ごくまれにできはじめている。

だけど、ヘリウム以上のいかついユニットは、ごく、ごく少数、ほんっ・・・の少しだ。

しかも、宝くじに当たるような確率でそんなふうに大きめの原子核が出現しても、くっつき方が不安定なために、すぐに崩壊していく。

まだまだこの生まれたての宇宙には、陽子と、中性子とが、バラバラに散らばっているだけだ。

それでも、世界がほんの少しだけ多彩になるのを感じるヨウシくんなんだった。

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