第二次包囲戦
魔王は秋にシャウスの道を下ってきた。ハマに入ったんだけど、リューオン、ベラテをパスしてキボン川をいきなり渡り、セラの野を横切ってエレギオンに迫って来たんだ。どうも魔王はリューオンやベラテには街を守る程度の戦力はあっても、ハマを襲うほどの力はないと読んだみたい。実際のところそうなんだけどね。そしたらまた出て来やがったんだ、
「慈悲深きアングマール王より、エレギオン国民に告げる。我の目標はエレギオンにあらず五女神なり、速やかに差し出せ」
今度はコトリが答えたった。
「恵み深き主女神の命を受けたる次座の女神が告す。そちの欲望が満たされることはない。速やかに故郷に戻られよ」
「おお、知恵の女神か。ゲラス以来で懐かしい。そちも体を清めて待っておるが良い。とくに念入りに可愛がってやろう」
コトリの横にメイスが立ってたんだけど、怒りで顔が真っ赤になってて、手がプルプル震えてた。そういえば、あれから結局休日取れなかったから、あの続き出来てないんだぁ。メイスだってやりたいだろうし、コトリもそうなの。
さて籠城準備なんだけど、前回の経験を活かして対策はあれこれやっていた。巨大石弓はより強化したし、巨大投石機も倍増の二十台設置した。さらに城壁の上にすべて屋根を巡らしたの。木製で土台を作り、さらに屋根には日干し煉瓦を敷き詰めたの。日干し煉瓦の屋根にしたのは敵の火矢対策。
強度はそれほどじゃないけど、アングマール軍の投石器では城壁の上まで大きな石を投げ込む力はないだろうって見方。とにかく前回はあの巨大な塔の高さにかなりやられたから、ここはしっかり対策しておく必要があると思ったの。
梯子対策はせこい手を編み出した。梯子は立てかけるんだけど、これを棒で押し出す対策。敵だって根元をしっかり押さえるだろうけど、そこはテコの原理で、上を押す方が力比べなら有利なの。そうやって城壁から離してしまえば、いくら登って来ても狙い撃ちできるってところ。
城門はまた落とし穴掘っといた。それだけやなく、掘り出した土で城門ごと埋めといた。これで敵は落とし穴を埋めて、門の前の土砂を取り除かない限り破城槌は使えないって対策。まあこれが破られたら、城門の内側を前みたいに石詰めにして塞ぐつもり。
アングマール軍はざっと見たところ前回より少なそう。高原徴収兵はかなりの損害を出したので、前回ほどには集められなかったのかもしれない。その辺もあってリューオンやベラテも囲まなかったのかもしれない。食糧不足も応えた可能性はある。
さて何をしてくるかと思ったんだけど、驚かされたのはアングマールも巨大投石機を設置し始めたこと。これを見たエレギオン軍は最初から全開で巨大投石機を撃ちだした。あんなものを撃ちこまれたら大変やから。巨大投石機は命中精度に問題があるというか、そもそも『だいたいこのへん』ぐらいの代物やねんけど、それでも目標が見えてるかどうかの差は大きいねん。
さらにいえば、エレギオンの追加巨大投石機はさらに大きくしてあったの。その上で土台をもう五メートルかさ上げしといたから、撃ちあいはエレギオン有利に進んだの。アングマール軍も地面からじゃ届きにくいので、土台を作り始めたんだけど、目標が大きくなって当たる数が増えるし、一発当たると土台がかなり傷むのよ。
巨大投石機の数が増えたのでアングマールの巨大な塔攻撃も有効になってん。あの巨大な塔はとにかく敵前で組み立てるから、巨大投石機だけでなく、巨大石弓、その他の飛び道具の的になるの。もちろん、それを作るだろうと予測して強化してあるから、アングマール軍は巨大な塔を作るだけでかなりの損害を出してるはずよ。
「ユッキー、あれなんやろ」
「ううん、前回やらなかったから妙と思ってたけど、今回はやる気ね」
アングマール軍は穴を掘り始めたの。つまり城壁の下を潜る穴を掘って城内に乱入しようって作戦。城攻めではポピュラーな戦術やけど、とにかく人手がいるのと、坑道が長くなると落盤も起りやすい点がポイントかな。
「あそこまで計算して掘ってるかしら」
「さあ?」
ユッキーは大城壁を作る時に土塁で土台を作ってるけど、その土は城壁の内側から掘り出しているの。それもわざと幅を狭くして深く掘り、そこを石と粘土でがっちり固めて水を入れて内堀にしてるの。見た目は幅が五メートルもないし、普段は蓋をしてるから、そんなに深そうに見えないけど、深さは四十メートルぐらいあるの。もちろんトンネル対策だけどね。
アングマール陣地の土の山は見る見る大きくなったわ。その間も巨大投石機同士の撃ちあいとか、巨大な塔の設置の戦いが続いていたし、わんさか出てくる埋め立て車の破壊戦も続いてた。包囲戦が始まって三ヶ月もしないうちに、
『ズシッ』
来たのよ魔王の心理攻撃が、四女神は城内を走り回ったわ。その頃には幾つかの巨大な塔も完成してたから、
「コトリ、来るわよ」
アングマール軍は空堀に橋をかけて渡って来たの。上から石を落としたり、巨大石弓で壊したけど、とにかく数が多いし、他にも攻撃目標が多くて壊しきれなかったの。そして現われたのが巨大梯子。これまた百個ぐらい一斉にかけて登ってきた。
『せぇーの』
例の棒で押し出す作戦はそれなりに有効やった。ただあれも登る人数が少ないうちは押し出しやすかったけど、ビッチリ並ばれると重すぎて押し出しきれんかった。もうちょっと機械仕掛けにしとくべきやったかもしれへん。ただ城壁上の屋根は有効やった。これのお蔭で巨大な塔からの矢の攻撃をかなり防げてた。もっとも敵の巨大投石機の石が当たるとぶっ壊れるから、修理に追っかけまわされてた。
梯子作戦は連日続いたの。でも前回に比べると巨大な塔の数も少ないし、城壁の屋根のお蔭で優勢に展開してくれた。巨大投石機は夜もフル回転させた。とにかく数撃たないと命中数が増えないし、別に夜だからって命中率が下がる訳じゃなから、バンバン撃たせたの。そしたらね、
『ズシッ』
強くなったの。
「魔王は最初からフル回転やね」
「どうしてだろう」
ユッキーは魔王の意図が読み切れなかったみたいだけど、まだ二段、前回は三段まで喰らってるから経験済みってところ。
「コトリ、二段目だけど前より軽くない。前の時は『ズシン』って感じだったけど」
「慣れたんちゃうん」
「そうかもね」
翌日の梯子攻撃の攻防戦もすさまじかったけど、魔王が二段目の心理攻撃をやった意味がわかったの。内堀の水位が少しだけ下がったの。
「かわいそうに、溺れたんじゃないかしら」
「たぶんね」
坑道の先から水がドバッと流れ込んだら、逃げ道無いからまず助からへんと思うわ。この二週間ほどが第二次包囲戦のヤマ場だったみたい。以後も動く塔や埋め立て車の妨害戦。さらには巨大投石機同士の撃ちあいは続いたけど、エレギオン優位に推移してくれた。それだけやなくて、魔王の心理攻撃も弱まっているとしか感じてしかたなかったの。
その後も散発的に梯子攻撃があったけど、前の時ほど危機的な状況に陥ることなく春にはアングマール軍は引き上げて行っちゃった。
「もう終わりなんだ」
「半年ぐらいで済んで助かったわ。また三年もやられたら食糧なくなっちゃうし」
アングマール軍が退却した後に休暇を頂きました。もう燃えまくっちゃった。
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