第7話
みやふきんさんは星が降ってきそうな夜、傾斜のある石畳の小道でまつげに一粒だけ乗っていたラメの話をしてください。
#さみしいなにかをかく #shindanmaker
https://shindanmaker.com/595943
宴のあと、すみっこで君が泣いていたことを、僕は知らない振りをして声をかけた。
「花嫁姿、綺麗だったね」
自慢げに彼女は頷いた。
「遠藤くんの弟もキマってたよ」
「そうかな」
自分と似た姿だから、複雑な気分だ。僕の時にも君はそう言うのだろうか。
一緒にレストランの外へ出た。すでに夜の帳が下りている。レストランへと伸びている石畳の坂道がライトに照らされた花道のようになっていた。昼間は道の両脇から、花嫁花婿へみんなでライスシャワーを撒いた。もう片付けられて跡形もない。駐車場までは少し離れていて、しばらく石畳の道を歩く。
見上げれば満天の星。今にも降ってきそうなくらいのあざやかさ。
すごい星だねと君が言うから、天の川が見えるのは田舎の特典だと答えておいた。天の川がどこにあるのかわからない君に、夜空を指さして教えてあげる。
彼女が織姫なら私は彦星にもなれなかった小さな星だと君はさみしそうに言った。
まだ大学生の頃、学祭の美術部展示で飾られていた僕の絵の前で、同じ専攻の君とばったり会った。君は彼女と一緒で、僕は弟と一緒だった。双子!と目を丸くしていた君の隣で、弟しか目に入ってない彼女に、僕は見惚れていた。不毛な恋の始まりは、そのままの結末へと向かってしまっている。
君がそんなふうに言うから、本音が漏れた。
「君は一生不毛な恋を続けるのだと思っていた」
「そんな覚悟はないよ。たとえ遠くなっても、会えなくても、離したくないだけ。友だちとしてずっと居座るしかできないから」
「諦めが悪いのは、僕も一緒だ」
歩くうちに石畳は途切れて、舗装されていない土の道に変わった。道を照らす灯の光が、君の瞳で一瞬チカッと反射した。ちょっと待って。立ち止まって見つめると、睫毛にのった一粒のラメ。不思議そうに君は僕を見る。ラメは、君が小脇に抱えているパーティーバッグから剥がれ落ちたものだろう。指にいつのまにかついていて、君がひっそり涙を拭った時に睫毛に移ってしまったに違いない。
綺麗だと思った。その瞬間から君を想えたら、いっそいいのに。僕の気持ちは君にはなく、手を伸ばすこともせずに、そっと閉じた。
「なんでもない」
僕は再び歩き出した。君もまた。
このあと、僕が君をホテルに送り届ける。君は化粧を落とす時に、星のかけらのように光っていたラメを、気づかないまま洗い流すのだろう。
そして僕は忘れてしまう。君を一瞬でも綺麗と思ったことすら、日々に流してしまうのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます