エジプト

@mafuda3

第1話

昔エジプトで石を積んだ土夫が呟いた。


「ここはどこだろうか?」

足を止めて立ち止まったので、周囲の作業がとどこおった。


土夫はビールを飲まされたあげく、その一日は岩屋戸の影で過ごした。現場の管理者のものの一人が、熱にやられたのだろうと判断して適切な対処をした為である。


土夫は夕方になって岩の影で目を覚ましたが、そのときに夕焼けを見た。太陽が砂漠の先に今にも沈んでいこうとしている。


陽が落ちて作業員は皆々が帰り支度をしているなか、現場管理長が報告を受けて土夫のもとへやってきた。


「どうだい調子は? 水は美味いか?」


土夫は倒れたわけでもなく、不思議に思っただけだったので率直に答えた。調子は良いし水は美味い。


そうしたやりとりに現場管理の長が不思議に思った。彼は別段健康でとりわけ元気に見て取れる。ならばなぜわたしがここにいるだろう?


現場管理の長が咎めた。

「君はなぜ仕事をサボろうとしたのか?」

場合によってはそれなりの罰則も付け加えねばらない。


土夫は答えた。

「わたしは仕事を、サボろうとしたわけではありません。ただ、この作業にどれだけの意味があるのかと考えたら、

恐ろしい気持ちになって、身動き一つできなくなったのです」


管理長は思った。ははぁこいつは熱にやられたのだな。たまに熱に当てられて中には死に至るものもいた。

だから同じようにそんなところだろうと判断した。


「3日休め、だが次の日からは最も困難な仕事に就いてもらうから、その準備をしておけ」

土夫は真面目で管理長の部下からも如何なる仕事も断らず卒なくこなすと評判を受けていた管理長は、いずれこの土夫を上のポジションにあげようと考えていたので、これはいい機会だと思った。

熱に当てられて寝込むなら、それほど必死に働いているのだろう。部下の上げてきた評価からそのように思った。


土夫は答えた。

「休みはいりません。明日からでも再び、ガムシャラに働かせていただきたいのです。」


管理長は感心した。それだけ仕事に意欲を燃やせる若者を彼は彼以外に知らなかったからだ。管理長は人が嫌がる仕事も率先してやり遂げた。

壊してはならない石の像を何体も一人で運んだ。

長く技術と時間を費やす仕事の意味を管理長は知らないわけがない。

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