0話 突然の…

僕、岸部裕樹は今、JR宝塚線の武田尾駅に来ている。 この駅は、駅の半分がトンネルもう半分は橋の上にあり、周囲には武田尾温泉があるぐらい、だと思われる。 聞こえてくるのは、駅の自動放送と、川のせせらぎ、風の音、そして夏だからかセミの大合唱が聞こえる。 いわゆる、秘境駅である、 自称人間恐怖症なのに鉄道オタクの僕は、旅に出るとこういう秘境駅で一人のんびりするのが、普通だったのだが。 今日は、違った…。

 「うわ~、こんな駅があるんだ~。

 うふふ、二人きりだね。」

 なぜ、僕は今、結構可愛いとクラスの女子と、こんなところにいるのか。

 「うん。 たまに一人で来るんだよ。」

 「へぇ~、そうなんだ~。」

しかも、なぜ彼女は楽しそうなのか、僕には分からなかった。

 少しして、彼女は僕に

 「あ、あの~、そこのベンチに座ってくれない?」

 「う、うん.いいけど?」

 僕は、彼女に言われたとおり、ホーム上のベンチに座ると、彼女は僕の前に立ったまま。

 「あ、あの~、貴方にこんなことを、聞くとなんだが、変な事になる…、いやいやごめん、そんなことじゃなくて、そ、その~、今付き合ってる人いてる?」

 彼女の質問は、僕の人生の中で初めて生で聞かれた言葉だった。 それに、そんなことをこの僕に聞かれるとは思わなかった。

「い、いや。 居ないけど。 そもそも、居てたら二人きりで、旅に出ないんじゃあないのかな?

 人との付き合い方は、あまり分からないけど。」

彼女は、少しほっと、したような雰囲気になり

 「そ、そうだね。 だったらさ、わ、私と、つ、付き合うきはない?」

なぜだ!? なぜ、彼女は僕にそんなことを聞いてくる? なぜ、人間恐怖症の僕は、彼女にドキドキしているのか? 誰か、教えてくれ!

「は、はい。そ、その、ぼ、僕でよかったら…。」


「まもなく、2番乗り場を電車が通過します。

 危ないですので、黄色い点字ブロックまでお下がりください。 2番線を電車が通過します。ご注意下さい。電車が通過します、ご注意下さい。」

 その時、電車の通過を知らせる放送の後に通過メロディが流れ始めた。

 「ありがとう。 お願いがあるんだけどさ、目をつぶってくれない?」

 僕は瞑ると、首の後ろ辺りを、何か暖かく、気持ちいい何かがすっと回っていった、目をつぶっていても分かった。 彼女は、僕の首の後ろに手を回して、しかも僕の顔の目の前に居ていると。

 その時、快速電車が通過していった。

電車の通過時の、強風と共に僕の、唇に何か気持ちよく、暖かい、何が触れた、いや俺の口の中に、何か入ってきてる!?

 電車の音が、遠ざかっていくと。 彼女は、僕から少し離れて

 「もう、いいよ。」

 僕は目を開けると。 顔を真っ赤にした、笑顔の彼女が居た。

 「うふふ、私のファーストキスだよ。」

 いや、本当に、なんでこうなった!?

それは、今から数ヶ月前に遡る。

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