種付けおじさんとママ

@takets

01

わたしは種付けおじさん。ママの子供だ。


小学校中退よりずっと、ほとんど自室から出ることがなかったわたしは、つい最近、手に職をつけることができた。

社会への参与、実に良い言葉だ。そう思えるようになった。

就職はすべてを変え、労働はわたしを自由にする——


——目を覚ます。目を右に動かす。04:59を指す目覚まし時計のボタンを押し、アラームを切る。

上半身を起こす。突き出た腹が邪魔だ。けれど種付けおじさんといえば肥満体型であり、これこそが理想的な体型という信念がある。


種付けおじさんは身体が資本、服を脱ぎ、トランクスだけになる。

日課のトレーニングを始める。

腕立て伏せを片腕ずつ合計200回、プランクを500秒、スクワットを1000回。すべてを終えると、軽く息が弾んでいた。

タオルで汗と床を拭く。小学校入学時に買ってもらった学習机に向かう。子供用の椅子が軋む。中年の体重に耐えられるようにできていない。けれど、わたしの椅子はこれ意外に考えられない。

端末の時計が午前6時を指している。いつも通りだ。


端末を起動させ、空っぽのゴミ箱を足でたぐり寄せる。

画面をタップしてディレクトリを開く。

大量の動画。大量の画像。大量のPDFファイル。

机の引き出しを開ける。

種付けおじさんはその名の通り、種が資本。

大量のトイレットペーパーとヘッドフォン、それから業務用のローション。

ヘッドフォンを装着、パジャマのズボンと一緒にトランクスもずり下ろす。


わたしはもうひとつの日課を開始する。

始めよう。

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