第13話 本の題名......


「「ご馳走様でした」」


 晩御飯を食べ終えると、彼は何時ものように食器をキッチン迄持って行き、汚れを水で潤かしてくれる。洗うのは私だが、片付けは彼の仕事なのである。

 私はと言うと、スマホを片手に持ち、ソファーの前に寄り掛かった。

 少しの間を置いて食器を運び終えた彼もやってくる。彼は見慣れないブツを片手にソファーへ腰かけた。

 私が寄り掛かる場所をソファーから彼の脚へ変えるが、彼は表情一つ変えることはせずに両手に握られたブツに目を落す。


 普段なら、スマホやパソコンを弄る事が多い彼だが、本日彼の両手に握られたのは本であった。

 文庫本サイズの本を1ページ一1ページ、熱心に捲る姿に、少々心拍数を上昇させながら私は、


「珍しいね」


 と言うと、彼はよっぽど集中してるのか、こちらの方を見向きもせず


「うん」


 と、静かに肯定した。


 私はその姿に少し、ムッとしながらもどんな本か気になり、表紙を覗き込む。しかし、本には花柄の刺繍されているピンクのブックカバーが程かされており、内容は愚かジャンルすら特定する事ができなかった。


 一言、どんなストーリーなの? と聞けば済む話なのだろうが、ストーリーに没入しきってる彼を、現実の世界へ戻すのは少々酷な気がする為、質問するのが躊躇わられた。が、さっきの対応を思い出し、少しばかりの憂さ晴らしも込めて本の題名だけは聞く事にした。


「何て言う本、読んでんの?」

「青い気持ちと此処から先と……」

「ふーん」


 何処かで聞いた事のある、タイトル名に思考を巡らす。すると、最近巷で流行ってる恋愛小説である事がわかった。

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彼の愛情は冷めていない。 @TORIx

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