第2話
「おお」
仰々しい札の登場に、凜理が音を立てず拍手した。
と、その瞬間――。
「また、こんなところで遊んでるのかい」
ガラガラっと、引き戸が開けられて、用務員のおじさんが入ってきた。
「ああ……!」
悲痛な声を上げて、満夜が肩を落とした。
「相変わらずの効き目やなぁ」
結果はわかっていたとでも言いたそうに、凜理が満夜を哀れみの目で見た。
「ちょっと、そこどいて」
おじさんに言われて、満夜がロッカーの前からどいた。おじさんがロッカーから竹箒を取り出すと、
「あんまり遅くならんようになぁ」
と言って、出て行った。
「つ、次こそは……っ」
満夜は悔しそうにうめいた。が、すぐに気を取り直して、にやりと笑った。
「呪符は失敗したが、うちの土蔵で面白いものを見つけたのだ」
「なんやの?」
満夜は不敵に笑いながら、ポケットから手のひらサイズの金属を取り出した。丸くて厚みがある。片面はつるつるとしていて、顔が映り込むほどだ。もう片面には意味不明な文字が彫られ、模様が描いてある。
「これだ」
「コンパクトミラー?」
不思議そうに呟く凜理に満夜が突っ込んだ。
「ちがーう! 銅鏡だ」
「わかってる、冗談やん」
満夜から、銅鏡を受け取り、凜理は不思議そうにそれを眺めた。それなりの重さが有り、プラスチックやアルミでできたものではなさそうだ。おもちゃでないとわかって、凜理は満夜に銅鏡を返した。
「それがどないしたのん?」
「これ、じっちゃんに言われて、土蔵の虫干しした時に見つけた。小さい桐箱に、がんじがらめに紐でくくられて、札が貼られてたから、もしかしてと思って中を開けてみたのだ」
今度は凜理が満夜を突っ込んだ。
「あんた、そっちの方がよっぽどやばいやん。開けたらアカンもん、開けてしもうたって思わんのん!?」
「もう遅い。それになんともない。昔のもので怖いのは祟りとか殺生石みたいなもんだけだ」
「意味がわからへん」
満夜の屁理屈に、凜理は呆れた。
「じゃあ、その銅鏡に呪いがかけられてあったらどないするの?」
凜理も平然と呪いという言葉を口にする。満夜が言う祟りという言葉もふつうのことのように受け止めている。
満夜の家は普通の家庭だが、凜理の家は神社をしていて、凜理自身、高校を卒業したら巫女になることになっている。だからかも知れない。
「呪いがかけられてたら、宮司をしてるお前のおやじさんにお祓いしてもらう」
「また、怪しい物を……」
満夜も土蔵の中にガラクタと一緒にこんなお宝が埋まっているとは思いもよらなかった。だが、どんなお宝かわからない。なので、持ち歩いているというわけだ。これで祟りだの呪いだのと不思議な事が起これば、もっけの幸いだ。研究対象にしてしまえばいい。
そう……、凜理のように。
凜理もあれを満夜に見られなかったら、こんな怪しいクラブに関わること、満夜に弱みを握られることもなかったのだから……。
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