第4話 警察官との攻防
パーティー会場の中心に突如として出現したオールバックの男を前にして、ハルトはただ愕然としていた。
エリナの祖父の写真と共に『加賀祥一朗議員衆議院選挙決起集会』と書かれた立て看板の横に立っていた。
なぜ、オールバックの男はこの会場に出現したのか。加賀祥一朗衆議院議員と関係があるのだろうか。
エリナに目をやると彼女もまた突然の出来事に驚き硬直しているようだった。それは当然だった。出現したオールバックの男が抱きかかえていたのはエリナの妹のアミナちゃんだったからだ。そして、アミナちゃんは男の腕の中で気を失っているようだった。
パーティーの主役だったエリナの祖父、祥一朗さんは会場の隅の方へ逃れていた。多くの警察官が警護のため彼の周りに固まっていた。
警察官たちはオールバックの男に対して明かに怖気付いているように見えた。守るべき対象は祥一郎さんなのだから彼の近くで固まることは当然と言えば当然だ。しかし、まるでそれはオールバックの男を排除してアミナちゃんを解放することを自分以外の誰かにやって欲しいと考えて避けているかのようにも見えた。
オールバックの男は警察官の恐怖を嘲り笑うかのように憎まれ口を叩いた。
「皆さん、そんなに私のことを恐れて避けないでくださいよ。こう見えても寂しがり屋なんですよ」
そして、乾いた笑い声を上げていた。
ハルトは直感的に彼のことをを嫌悪するべき対象だと思った。
ハルトやエリナたちはオールバックの後方にいた。前方にも大勢のパーティ参加者が呆気に取られていた。まだ恐怖を感じる存在なのか推し量れずにいた。
オールバックは淀みない動作で腕を振り上げたかと思うと、何かを払うかのように振り下ろした。
すると、オールバックの前方にいた人たちは薙ぎ倒された。多くの者が何らかの強い力を受けて体を強く打ち付けていた。その中には傷付き流血している者もいた。
後方にいたハルトたちは慌て、堰を切ったように逃げ惑った。
オールバックは振り向き、後方にも先程の技を繰り出そうとしていた。
「危ない!」
ハルトは思わず飛び出していた。背中に酷く衝撃を受けた。オールバックとエリナとの間に割り込み、エリナの肩を押した。可能な限りオールバックの技の影響を避けられるようにした。ハルトは傷付いたがエリナは助かった。
祥一朗さんが警察官たちに叫んでいた。
「お前たちも何とかしろ」
祥一朗さんを死守していた警察官のうちの若い数名が弾き出された。その警察官たちはハルトたちの元へ駆けつけた。警察官はハルトたちに休むように言った。少し順番がおかしくないかとも思ったが、休むことにした。
オールバックは静かに微笑みをたたえ、ゆっくりと語り出した。
「どうやらお楽しみの最中だったらしく、お邪魔をして大変申し訳ない。私の名はアルデール。少々ながら魔術を嗜んでおります」
祥一朗さんは彼の周りで固まる警察官をかき分けてアルデールに叫ぶように言った。
「ワシはその娘の祖父だ。アミナをどうするつもりだ!」
アルデールは落ち着き払った様子で答えた。
「そうでしたか。大変申し訳ありません。今、この娘には私の魔力によって、苦痛も恐怖も空腹も感じることがない夢を見させています。これから私の計画に使わせて頂きます」
「計画とは何だ?」
「私はこの世とは別の世界からまいりました。この娘の魔力が強力でしてね。極めて純度が高く、高潔なのですよ。私が探し求めた魔力を持ったものがこんな辺境の地にいたとは思いもしませんでしたよ。その力を使ってこの世界を我がものとさせて頂きます」
「何を訳のわからないことを言っている?」
「要するに、前の世界は制圧し尽くしましたので、この世界も楽に我が物するためにこの娘の力が必要なわけです」
祥一朗さんは相変わらず群がり固まる警察官を叱り付けた。
「おい、ワシは良いからあいつを何とかしろ」
弾き出された警察官数名がアルデールを拳銃片手に取り押さえようとする。
アルデールは右手を翳した。
警察官が持っていた拳銃は磁石にでも吸い付くように取り上げられて、まるで手品のようにアルデールの方へと取り上げられてしまった。
ハルトは目の前で繰り広げられた、およそ現実とは思えない出来事を呆気に取られて見ていた。拳銃を持った警察官でも叶わなかった。
アルデールは勝ち誇ったようにパーティーの参加者たちを見下した。
「調子に乗るのもそこまでだ!」
淀んだ空気を切り裂くように声を上げたのは播磨巡査だった。手には竹刀が握り締められていた。金属で出来ていない竹刀ならば、あるいは勝てるかも知れなかった。竹刀なら磁力で引き付けることはできないだろう。
「私は剣道で国体に出場した経験があるんだ。私がアミナちゃんを助ける。エリナさん、見ていてください!」
やたら、エリナへのアピールが強過ぎたが、播磨巡査の姿は勇敢そうに見えた。
しかし残念ながら、播磨巡査の勢いや虚しく、あえなく一瞬で薙ぎ払われた。これで万事休すか。
戦意を喪失した警察官たちを見てアルデールは満足したように頷いていた。
「それではある施設を探すという用事がありますので、私はこれにて失礼させて頂きます」
唐突に、アルデールは燦然と輝く強烈な光の中に消えた。
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