百鬼夜行もいいところ
襖の向こうで両親が盛り上がっている。
両親はともに
先ほどから女の霊が私を虐待しておる。
女は目を極端に吊り上げ、曖昧な、それでいて空気の質量だけは
私は口をへの字に結び、女の虐待を黙って受け容れておる。
私は
私と母が産院から越してきた時、女は
女の足もとには老犬がいっぴき
女の暴行は三十分になる。というのは、律義に午前零時に虐待を始めたからである。即ち父母はまだ前戯の段階である公算が高い。父母が父母なりに私を愛してくれていることは理解の上だが、とはいえそろそろ苛立ちが
確かにあの男女を
「わしゃ猫の子かい」と適当な家に落下していった同輩は、近所の金持ちの家に生まれつき、天蓋にフリルのついたベッドですやすや寝ていると聞く。念のために付けくわえれば、私はフリルのベッドに寝たいわけではない。
女の暴行は
あまつさえ簞笥の裏から気色の悪いものどもがわらわらと湧きはじめた。
魑魅魍魎、葬列、脂身、陰キャ、虫の裏側、猫の糞、うつ病の作家志望者、……何れも私よりもいくぶん小さく、蚤のように軽快である。軽快であるがゆえに
パニックを起こして火が点いたように走りまわる老犬を後目、彼らは上機嫌に見える様子で私の蒲団を取り囲んだ。頭上で何者かがボイスパーカッションを始め、統制の取れていない乱痴気な踊りをそのどれもが始めた。百鬼夜行もいいところだ。
私を虐待していた女が、思いだしたように天を仰ぎ吼えた。
うまく聞き取れなかったが、何故だかそれが下品な罵声であるということは理解できるのだった。彼岸にも此岸にも
その時ようやく、隣室から母の声が聞こえた。
「いれて、いれて」
私はいい加減にしろと思った。
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