奇々怪館

林悟

不思議な館の扉を開ける物語

 目が覚めるとそこは森の中。

 桜ノ宮真希さくらのみやまきは体を起こすと、まず伸びをした。

 それから思考を巡らせる。

 真っ暗な森。ザワザワと木々の音が不気味な森。

 誰かが見てる、何かが見てる。

 なんだか怖くて真希は逃げ出した。


 夢中で走っていた真希は、いつの間にか森を出ていた。

 クレヨンで塗ったような青い空の下、人工的に作られた石畳の道がまっすぐ続いている。

 真希はその道を歩いていった。


 暫く歩くといろんな動物さんが集まってきた。

 二足で歩く犬さん、猫さん、狸さん、狐さん、熊さん、兎さん。

 犬さんが真希の右手、猫さんが左手を握り、みんな横一列で手を握る。

 ――私と愉快な仲間たち。

 真希と動物さん達はランランランとみんなでスキップした。

 

 石畳の道を進んでいくと、道の左右にお花畑が広がっていた。

 白、青、黄、他にもいろんな色のお花が一面に咲き誇っていてきれいだが、赤色の花はどこにも咲いていなかった。

 動物さん達とぼんやりお花畑を眺めていたとき、小さな女の子がやってきた。

 女の子はたくさんのお花が入った籠を持って、真希と動物さん達にお一つづつどうぞとその籠を持ち上げた。

 犬さんは黄色の花、猫さんは青い花、狸さんは紫の花、狐さんは橙色の花、熊さんは桃色の花、兎さんは白い花を一輪ずつ籠から抜き取った。

 だけど真希はお花を受け取らなかった。

 その籠にも赤色のお花が入っていなかったから。

 ――いらないわ。私は赤が好きなの。

 すると、女の子はトボトボ帰っていった。

 そうして真希と動物たちはまた石畳の道を歩き出した。

 

 石畳の道は大きな館まで続いていた。

 トントントン。

 館の大きな扉をノックして、だけど返事は聞こえない。

 ゆっくり押してみると、重そうな扉がかんたんに開いて、真希は館の中に入っていった。

 ギギギー。

 後ろで大きな扉が閉まる。

 扉の向こうで動物たちが笑って手を振っていた。


 館の中がぱっと明るくなったと思うと、腰くらいのお人形さん達が出てきて真希の周りをくるくると走り出した。

 お人形さん達はみんなで手をつないで輪を作り、その輪の中に真希がいた。

 最初はそれが可愛くて楽しかったけど、お人形さん達がいつまで経っても輪から出してくれないから、真希は怒ってお人形さんの鼻を指でつついた。

 パンッ

 すると、鼻をつつかれたお人形さんが音を立てて弾けた。

 弾けたお人形さんの中から綺麗な石がたくさん出てきた。

 真希はそれを見て目を輝かせた。

 お人形さん達は逃げ出した。真希はそれを追いかけた。

 ポヨンポヨン。

 可笑しな足音を立てて逃げるお人形さん達。

 そんな足の遅いお人形さん達を捕まえて、真希はその鼻めがけて指差した。

 パシャーン。

 さっきとは違う音を立ててお人形さんが弾けた。

 落ちてくるのはダイヤモンド、サファイア、エメラルド、オパール、他にも色々な宝石。

 鼻を蹴飛ばしすとお人形さんが弾けた。

 たくさんの宝石が床に散らばる。

 鼻を摘むとお人形さんが弾けた。

 赤、青、黄、紫、緑、桃、色んな色の宝石がキラキラ光を反射する。

 暫くすると、お人形さん達はいなくなった。

 辺り一帯の床は綺麗な宝石に満たされている。

 真希はその中で一番気に入った真っ赤なルビーをポケットに入れた。

 とっても綺麗

 真希は隣の部屋につながる扉を開けた。


 気づけば真っ黒なスーツを着ていたはずが、真っ白なワンピースに着替えられている。

 背中には真っ白な翼が生えていた。

 そんな真希がいるのは舞台の上。

 大きな木のセットの上から演技をしている二人の役者を見守った。

 演目は……なんだっけ。わからない。

 二人の役者は恋人役。

 そして真希の役はキューピット。

 ドキドキドキ。

 もうすぐ佳境。緊張の音が鳴り止まない。

 今だ!

 キューピットのお仕事の時間。

 ハートの矢尻の弓矢を放って、見事大当たり。

 役者の胸を貫いて、役者はパタンと力なく倒れた。

 お仕事終わり。

 真っ白い翼をブチッとむしり取る。

 真希は次の部屋につながる扉を開けた。


 長ーいテーブル。

 端から端まで、いろんな料理が並んでる。

 シェフの色とりどりの鳥さん達が、料理を急いで運んでいる。

 パクパクパク。

 サラダ、漬物、野菜スティック。

 ゴクゴクゴク。

 スープ、味噌汁、ポタージュ。

 ガブガブガブ。

 ステーキ、ハンバーグ、ローストビーフ。

 モグモグモグ。

 パン、ご飯、パスタ。

 グビグビグビ。

 ワイン、日本酒、シャンパン

 ムシャムシャムシャ。

 ケーキ、フルーツ、マカロン。

 綺麗に完食。

 それでも何だか物足りない。

 鳥さん達がお皿を片付けている。

 近くを通った鳥さんに、真希はよだれを垂らして言った。

 ――ねえ鳥さん。あなたも食べていいかしら。

 色とりどりの羽が美しく舞い散った。

 お腹いっぱい。

 真希は隣の部屋につながる扉を

 ――私もそれ、言いたいな。

 ――私は次の部屋につながる扉を開けました。

 

 とっても素敵な室内プール。

 真希は水着に着替えて飛び込んだ。

 バシャバシャバシャ。

 クロール、背泳ぎ、平泳ぎ。

 ――なんだか一人は寂しいな。

 真希がそう言いうと、どこからかペンギンさん達が、やってきた。

 真希の隣をペンギンさん達が泳いで、ペンギンさん達の隣を真希が泳いだ。

 するとまたもやどこからかサメさんがやってきた。

 サメさんがペンギンさんに噛みついて、鮮やかな血が吹き出した。

 ペンギンさんたちは泣いた。

 家族が死んだ。友達が死んだ。

 誰か助けて、私も殺される。

 真希はペンギンさん達の頭を撫でた。

 ――悪いサメさん。私がお仕置きしてあげる。

 そうして真希は悪いサメさんがいるプールに飛び込んだ。

 プールの底に死んだサメさん。

 プールの一箇所だけが斑に赤い。なんだか少し気持ち悪い。

 だけどどうすれば綺麗になるのかわからない。

 真希はルビーの宝石を取り出した。

 これだ!

 真希はペンギンさん達を集めて言った。

 ――みんなの赤を私にください。

 さっきまで澄んだ水色をしていたプールは、今は真っ赤に塗りつぶされている。

 キラキラ輝くルビー色のプール。

 だけどそこにペンギンさんはいない。 

 よし、綺麗になった。 

 真希は最後の部屋につながる扉を開けた。

   

 いつの間にか真っ白なドレス姿の真希。

 目の前は素敵なダンスパーティー。

 綺麗に着飾りフォークダンスをする男女の顔は楽しそう。

 だけど真希はつまらなそう。ダンスに興味は無いと言う。

 そう言いながらも華麗にターン。

 振り向きざまに踊る一組の首にその爪を走らせる。

 美しい血飛沫が真っ白なドレスを反転模様に汚した。

 構わず真希は、滑らかな足さばきで近くのテーブルへ。

 ムシャムシャムシャ。

 ぶどうを束ごと口に入れ、果物ナイフを手に取った。

 そして踊る人達にその刃を走らせる。

 斬撃、刺突、首に一閃。 

 爪より簡単に切れる。

 血飛沫、血飛沫、血飛沫。

 真っ白なドレスが染まってく。

 さあ楽しもう。このドレスが真っ赤に染め上がるまで。

 宴だ、祭りだ、血飛沫祭り。

 捌いて、刻んで、割いて。

 どんどんドレスを染め上げる。

 お祭りはまだ始まったばかり。それなのにもう誰もいない。

 人がいなければ祭りはできない。

 まだ染め残しもあったのに。

 袖口の白を見て、真希はがっくりと肩を落とした。

 ――あ、あと一人いた。

 そう言って真希はニッコリと笑っ……

 袖口を染め上げて、もう染め残しはない。

 真っ赤なドレスの出来上がり。

 とっても楽しい一日だった。

 ――私は外につながる扉を

 ドンドンドン

 扉を叩く音がした。お客さんだ。

 どんな人だろう。そもそも人かな。扉の向こうはどんな景色が広がっているのだろう。きっと素敵な世界が待っているだろう。

 もしかしたら今、私のことを見ている誰かの部屋につながっているかもしれない。

 ドキドキドキ。

 期待に胸を膨らませ、

 ――私はそこにつながる扉を開けた。

 

  

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奇々怪館 林悟 @Hayashi5884

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