第21話 暗殺者は久々の裏の任務を受ける
翌日セロは早速闇ギルドへと足を運んでいた。魔族の魔力核を盗むために情報を買いに来たのだ。
いつものように昼間は年中CLOSEのカフェのマスターに頼み、階段の無い地下へとテレポートさせてもらう。
そこには、髭面の男のブローカーと序列二位の“天泣”ティアが居た。それ自体は予想していたので、セロは特に驚かず単刀直入に本題に入る。
「第一魔法研究所の情報を売れ」
「ウォルドのやつから話は聞いてる。まずはこれを見ろ」
ブローカーもまた予想していたようで、十枚に及ぶ紙を手渡してきた。セロはそれを受け取りパラパラと眺める。
「巡回予定図と内部構造か。ありがたい」
「気にすんな。相応の金は頂く。それとセロ、今回はメスガキも連れていけ」
「ティアをメスガキ呼ばわりとは殺されたいんですか? 間合いに入ってることを忘れないでくださいよ」
「足でまといを連れて行くのは嫌なんだがな」
「まーたそんなこと言って! セロさんツンデレってやつですね!」
そう言って俺の隣に立ち肩を叩いてこようとする。
しかし、セロはそれをすんでのところで躱した。
「暗器仕込むならもう少しバレないようにしろよ」
「だって本気でやったらセロさん死んじゃうじゃないですか!」
「自分の死ぬ間際くらいは良い夢見れるってか? おめでたいやつだな」
「序列がどうとか知りませんが、そんな権威主義では寝首をかかれますよ?」
「気にしてんのはてめえだろティア」
「やめろお前ら! 話が進まねぇ!」
セロとティアの皮肉の言い合いにブローカーは割って入る。喧嘩を売るのも買うのも、お互い実力に自信があるがゆえなのはいつものことだ。
「てかセロ、お前それちゃんと見たのか?」
「巡回予定図と内部構造だろ? それがどうかしたのか」
「てめえそれでよく行こうと思ったな。魔族の魔力核がどこに保管してんのかはわかんのか?」
「……ティアが、見つけるとか?」
「ティアにそんな器用なこと出来ると思ってるんですか? それなら魔族見つけて抉り出してくる方がまだ可能性はあります」
「てことだセロ。メスガキよりましとはいえ、お前もそういうのには向いてないだろ」
バッサリ切り捨てられるが言い返せることはない。セロ自身も隠密行動がそれ程得意とは思っていないのだ。
「そこでお前に強力な助っ人を用意した。泣いて喜べクソガキ」
「うるせえ早く出せクソジジイ」
「一々口が減らねえガキだなぁてめえは。……ほら、こっち送れ!」
ブローカーは地下から一階に届くくらいの大声で呼びつける。どうやら上に待機させているようだ。
少しすると、セロの後方に魔法陣が現れる。それはマスターの転移魔法であり、やがて一人の男が現れた。
ツーブロックに残りはオールバック。筋骨隆々な身体に似合う目元に入った大きな傷。
そして、セロは以前にこの男と交戦したことがある。
「盗賊の頭……」
「アルベールって呼べよ、凪」
そこに居たのは、つい最近刑務所へと突き出した男。まだ一ヶ月すら経っていないのにどうやって檻から出てきたのか。
「おいクソジジイ。どうしてこいつが檻の外に出てるんだ」
「有能だからだ」
「出した理由じゃなくて出した方法を聞いてんだよ」
「あー? お前も察しが悪いな。ウォルドの正体を昨日知ったんじゃねえのか?」
「……ああ、なるほどな」
序列三位、“煉獄”のウォルド。しかしその表の顔は首席矯正処遇官のウォルフォードという、看守の中では国でトップの存在だ。
「職権乱用も良いところだろ」
「知ってるか? 金を積みさえすれば上の許可次第で釈放されるんだよ」
「なら俺が捕まった時は頼む」
「その時のてめえに利用価値が残っていたらな」
セロの軽口にブローカーは同じく雑に返す。実際はそもそも捕まるはずがないというのがセロとブローカーの共通認識だ。
「で、本題だ。アルベールにはセロとティア、お前らと共に第一魔法研究所に向かってもらう」
「三人も行くのか。だがそれならティアは置いていっても良いんじゃないか?」
「はー? ティア捨てるとかセロさん頭おかしいんですかー?」
ティアはそう言うが、セロのそれは嫌がらせではなくちゃんとした考えのもとの発言だった。
隠密行動に三人が多いのは言わずもがな、以前頭が切れると言われていたアルベールとは異なりティアは行動が読めない。それでは任務に支障が出る。
そのことはブローカーにも伝わっているだろう。だが、それでもブローカーは譲らなかった。
「いいや、これは三人で行かせるぞ。今の時期てめえに下手に怪我をされると面倒なんだよ」
「……第一魔法研究所に何か居るのか?」
「噂だがな。それにお前が負傷した場合、その間は誰が人型魔法兵器を殺すんだ」
「それくらいティアやりますよー? たかが人間一人でしょう?」
「出来るかもしれねえがセロよりは確率が下がる。現状俺ぁそう見てる」
「……まあ良いですけどー。なーにが一位ですか。夜道だけとは限りませんからね」
「闇討ちで殺せる程俺は弱くねえよ」
実際セロはティアに対して相性が良い。ウォルフォード相手であればまた話が変わるが、少なくともティアに負けるビジョンはセロには見えない。
「……そろそろ俺も話して良いか?」
「おう、待たせてすまんな。アルベール」
「第一魔法研究所にある魔族の魔力核だったな。それなら既に知ってるぜ。……凪、お前の持ってるそれに内部構造が書かれてるのはあるか?」
「ああ」
問われたセロはアルベールへ紙の束を手渡す。一通り見たアルベールは不敵に笑った。
「地下二階までしかこれには書かれてねえな。だがそのもう一つ下、地下三階にはデカい空間が存在する」
「ほら見たことかクソガキにメスガキィ! アルベールはてめえらみたいな脳筋とは違ぇんだよ!」
「それで俺に負けてりゃざまぁねえがな」
「ティアなら既に二百回は殺せてますよ」
「適材適所っつー言葉を知れバカ共が!」
「……仲良いな、アンタら」
アルベールは三人のやり取りを見て苦笑する。傍目には父親と生意気な子ども二人にでも見えているのかもしれない。
「とりあえず、そこに向かうまでの道筋は俺に任せろ。その後は凪と天泣、お前らの仕事だ」
「やっぱり何かいるのか。面倒臭いな……」
「良いじゃないですかセロさん! ティア達の力をこの有象無象のデカブツに見せてあげましょう!」
「俺ぁ一応暗殺じゃあ十位なんだがな……」
暗に雑魚呼ばわりされたアルベールだが、相手は暗殺においては格上の序列二位。裏の情報に詳しい分ティアのことも人一倍知っているのだ。
ひとまず話せることは終わったとブローカーは大きく手を叩く。それだけで場の空気がピンと張り詰めた。
「てことだ。決行は明日の深夜、細かい時間やら場所はアルベールに任せた。それまでに各自準備を怠るなよ」
それだけ言うと大きな魔法陣が後方に展開される。話すことは以上で、帰れということだろう。
久々の裏の仕事。セロは軽く手首を鳴らして、魔法陣の上に立った。
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