第11話 暗殺者は魔族について知る
盗賊の頭が話したがっていそうなことは終わった。次はこちらの番だと言わんばかりにセロは
そして鈍い輝きを放つ宝石のような物、
「盗賊。これについて知っていることを話せ」
「あぁ? ……ああ、結傀か。試しに魔力をそいつに流してみろ」
「断る」
「ははっ! 殺り合ってる時にも思ったが、お前結構警戒心高ぇんだな。そんだけの強さがあるなら驕って然るべきなんじゃねえのか?」
「さっさと話せ」
「へいへい」
「そいつぁ自分のストッパーを外すもんだ」
「魔力の総量は変わらないってことか?」
「ああ。同じ時間に出せる魔力の量を無理やり多くするってのがそれの説明だったはずだ」
「はずというのは、魔族に聞いたからか?」
「そうだなぁ。その魔族もちゃんと理解してなさそうだったから何とも言えねえが、ひとまずはそれで合ってんじゃねえの?」
そんなことこっちが分かるわけないだろう、とはセロは言わなかった。一々話を止めていては本題へ入れない。
「後はその魔族についてだが……っ!?」
「ぐっ、何だぁ……!?」
急激に重くなった身体をセロは両足で踏ん張り、楽な体勢にしていた
立てなくなる程の重量を感じる現象。セロはこれを、以前も体験している。
──“ひれ伏せ”。
「アイツ……っ!」
「何だてめぇ、知ってんのか!?」
「お前に話す義理は……うおっ!?」
ベキベキベキ! と不快な音が耳をつんざく。直後、バキンと今までで一番大きな音が鳴り。
次の瞬間、二階建てだったそれはめちゃくちゃな瓦礫の山と化した。
「ぐっ……!」
「がはっ!!!」
叩きつけられたセロと
セロ達が居た部屋は天井が無くなっているため上からの落下物で傷付くことはなかったが、なおも継続される魔法に肺が圧迫される。
ざっ、ざっ、と。遠くから足音が聞こえる。身体が重くて満足に動けない中、唯一歩ける人間。
アジトの残骸を踏み越え、透き通るような白い髪を携えた小柄な赤目の女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「サリア……!」
「セロ。そいつが物盗りの親玉?」
「細身の仲間か、お前……!」
「セロのことよね? 少し違うわ。セロはアタシの下僕」
「違ぇよ」
「“ひれ伏せ”」
「「っ!?」」
瞬間、セロと
「ねえアンタ。魔族と出会ったって本当?」
「はは、……本当に何だお前ら……。見たこともねえ魔法を使う嬢ちゃんに“凪”、それにこんなやべぇのまで居やがるなんてよ」
「答える気が無いなら殺すわよ」
「……そこの細身が持ってる石。結傀って言うんだが、それは魔族の野郎から奪ったもんだ。傷の量は痛み分けってところだった」
「どこで出会ったのか答えなさい」
「ツーレンの街付近だ。裏の情報だがあそこは前々から魔族が居るって聞いててな」
ツーレンには魔族が居る。セロも裏の人間ではあるが、そんな話は聞いたことがない。盗賊の長としてそういった情報もキチンと仕入れているのだろうか。
「とりあえずサリア、早くこの魔法を解いてくれ。てかそもそも何でこんなことしてるんだ」
「何人か残党がアジトから出てきたのよ。面倒だから建物ごと押さえつけたけど」
「規格外過ぎんだろ……」
「そろそろフェリスも全員捉え終わった頃かしらね」
そう言ってサリアは魔法を解く。急に軽くなった身体に逆に違和感を感じたが、ひとまずこれで動けるようになった。
「そういやフェリスはこの魔法の中でも動けるのか?」
「理屈はよく知らないけど、あの子は何故かアタシの魔法を防ぐことが出来るのよ。普段はわざと受けてるけど」
「ああ……」
明らかにドM精神だろう。セロはある程度思考がわかるようになってきたことに心の中で溜め息をつく。
「こっちにサリアの匂いがする!!!!!」
「うお、急に出てくんなよ」
何を察知してかめちゃくちゃ元気そうなフェリスが顔を出す。匂いって単語だけでどこか変態の香りがするのは何故だろうか。
「フェリス、捕縛は終わったの?」
「勿論よサリア! さ、早くベッドに行きましょ! こんなところさっさとおさらばよ!」
「ん」
捕らえた盗賊達を放って二人は馬車を止めているところへと戻る。相変わらずマイペースな二人だ。
その様子を見てか、盗賊の
「大変なんだな、細身」
「否定出来ねえな……」
「……ま、てめえが“凪”なら何も心配するこたぁねえか。せいぜい二位の“
「……煉獄の爺さんに天泣のクソガキ。厄介なのは重々承知だ」
「そうかい。じゃあ
最後に盗賊の頭は不穏な言葉を残す。
投獄されたら最後、盗賊を仕切っていた人間なんて何年も外には出てこれないはず。その後のことを言っているのか、もしくは脱獄か。
どちらにせよセロに危険が及ぶことはなさそうだ。仮に仕返しに来たとしても、その時はまた無力化すれば良い。
そしてその頃には殺しも解禁されているかもしれないから。セロは盗賊の頭に返事もせず、サリア達の後を追った。
◇◇◇
盗賊団の捕縛は午前中に終わったため、帰りは以前のように野宿をすることなく、その日のうちにワンドの街へ帰ることが出来た。
日も暮れ月が顔を出した頃、セロ達はギルドへと赴いていた。理由は勿論報酬の百万キリスと、もう一つ。
「クエストの張り紙、残ってるのかしらね」
「サリアがわざわざ赴くんだから残しててもらわないとブチ切れるわ!」
「あったとしても、ツーレンの街近くのクエストはあるかわからないけどな。それならツーレンのギルドにクエストが行くだろうし」
魔族が居たと聞くツーレン。早速翌日からそちらへ行き、ついでにクエストも達成して金を稼ごうという魂胆だ。
セロ達は真っ直ぐ報酬窓口へ向かう。職員はセロ達を見るなり慌てて裏へ引っ込み、パンパンに膨れ上がった麻袋を持ってきた。
「盗賊捕縛のクエスト、達成したんだが」
「ありがとうございます! ではこちら、報酬の百万キリスです!」
渡されたそれは大量の金貨が入っているためかなり重い。ずっしりとした手応えは達成感を伝えてきた。
「クエストの張り紙ってまだあるか?」
「申し訳ございません、既に撤去していまして……。クエストをお探しでしたら、翌日改めて来てもらえるとありがたいです」
「はあ!? サリアに二度手間を強いるっていうの!? とんだクソ女ね!!!」
「“ひれ伏せ”」
「ああん! サリアったら、こんなに人が見てる前で……えっち!」
いつも通りサリアに窘められくねくねと動くフェリス。本気で頬を染めている辺り、真性のドMだとハッキリわかる。
「じゃあ俺は行くところがあるから先に行く。金はお前らに渡しておく」
「そ。じゃあフェリス、行くわよ」
「ご……ごめんなさいサリア……。私も行くところがあって……、本当はサリアの命令に背くなんてクソ男に触れるより嫌なのに……」
「引き合いに俺を出すなよ」
「わかった。じゃあアタシは先に館に戻っておくわ」
各々はそれぞれの目的地に向かい別れる。
セロの向かう先、そこは裏の人間なら馴染みの深いところだ。
闇ギルド。裏の仕事の斡旋や報酬を貰う、今居たギルドとはまた異なる場所である。
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